皮肉な出会い
皮肉な出会い
高速道路のサービスエリアに駐車したのは、ずっとトイレを我慢していたからだった。ぎりぎりの状態だった牧野哲郎は、ドアロックをせず、エンジンも回しっぱなしで車から離れた。トイレの中では不安だった。すぐに戻ったので、何も問題はなかったが、やはり、次に車から離れる際は、ドアロックをするべきだと、反省しながら思った。
彼の車が本線車道に出ると、後部座席から女の悲鳴が聞こえた。驚いて振り向いた牧野の眼に映ったのは、見知らぬ女性のパニックになっている顔だった。
「えっ!?どうして?」
何かよくわからないのだが、相当に拙いと、牧野は思った。
「何ですか、あなたは!」
女性の叫びは切迫していた。
「……」
どうやらその女性は、車を間違えて後部座席で眠っていたということらしい。眼が覚めたら何の断りもなく車が疾走している。それで慌てたということのようだ。
「自動車泥棒ですね!警察に通報しますよ」
逆の立場を想像すると、その恐怖たるや並み大抵ではないだろう。
「待ってください……あっ!」
ドアポケットに入れてあった地図帳が消えている。
「どうしたんですか?」