詩まとめ
それを愛と知っていた
その瞬間、最後の砦が崩れ落ちた。
私は夕陽に染まるそれを見詰めて、膝を付いて地面に座り込んだ。
最後の聖域だったのだ。
そこは。
愛と知っていたら、こんなにも伝えるのが難しい事では無かった。
もどかしさで胸は今にも張り裂けそうで、苦痛で頬は引きつっている。
愛と知っていたら、伝えることを拒みなどしなかった筈なのに。
色褪せていくこの気持ちを何に喩えよう。
失われていく彼への愛を何に擦り替えよう。
そうだこれはオレンジなのだ。
傷付き腐りかけた酸っぱい果実。
夕陽に染まり一瞬だけその傷を隠して美しいものたちに紛れ込むオレンジ。
それを私は愛とは知らなかった。
ただ腐らせてしまうだけだった。
彼への気持ちは情熱の赤では無く若く苦い黄緑色。
やっと夕陽に染まれた頃には腐り落ちる前だった。
それを愛だと貴方は知っていたなら
教えて欲しかった。
作成日:2010-09-28