詩まとめ
マーメイド
千一日目の夜が訪れ
私は泳いだ
森の湖
ここが故郷の海ならば
泡となり消えてしまえるのに
森の樹々たちが語らう
夜の霧は濃く
私は鳴いた
ここが今際の宴ならば
息がつまり死んでしまいそう
あなたがすき
呪詛のように唱えた
あなたがすき
闇夜に溶ける緑髪を
あなたがすき
せめて心の臓の代わりに
たとえ私が人魚姫でなくとも
貴方はやがて恋しい人と生きる
貴方の髪さえ奪えずにいる私は
霧の森を彷徨い歩いた
千一日目の朝が訪れ
私は微笑む
籠の鳥
ここが故郷の国ならば
飼い殺されて老いるだけなのに
森の樹々たちは波立ち
噂を運ぶ
風の便り
ここは玻璃の高き塔
昇り詰めれば落ちるだけだろう
あなたがすき
誰にも知られず囁いた
あなたがすき
全てを射抜く眼差しで
あなたがすき
せめて私の息の根を止めて
たとえば私が人魚姫なら
貴方の心を手に入れられず
貴方の知らぬ所で泡となる
それでも私は霧の森の中で
あなたへの恋しさにうちひしがれる
2012.10.15