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last child

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プロローグ

「ねぇ、貴方はどっち?」
そう笑顔で聞く彼女に、僕は何も答えることができなかった。


「使用できる残高がそろそろ危ういのでは」
“A”はそういって去っていった。Aが心配しているのは僕の生活残高だ。そう認識すると、通帳に目を通した。
残高は2万円。3か月の生活をしていくには少し少なかった。この前の怪我での治療費の所為だろう。僕は通帳を戸棚にしまうと、外へと出た。
外には何もない。ただ意識が飛びそうになるほどの日差しと、白い建物ばかりがある。

「何をしている。」
「散歩。」
見回りをしていた“B”がきてそういう。そして僕もそれに最低限の答えしか示さない。

どうやら僕はおかしいらしい。彼らにとって意味のないことは、実行されない。僕もその一人だったはずなんだけど。
そしてやはり彼は首を傾げて僕の横を通り過ぎていった。

僕は近頃、意味のないことをするようになった。そして、覚えのない事を思い出すようになった。あんなに大きい道があるのに、誰もその方向へ行こうとはしない。誰も気づいていない。あの道を認識できるのは僕だけのようだった。でも、僕の体はそちら側へと行こうとすることができない。あの灰色の地面で固められた大きな道を、その向こうへと行くことの思考を抱いたとたんに体は硬直する。
今日こそはそれを破ろう。

「よし」

あれ?僕は今までよし、なんて声を出して物事を試行錯誤したことはあっただろうか。なかったはずだ。
あれ?どうしたんだろう?それが当たり前だったことが以前に…?

■■■■■…?ア?

僕は気が付いたら地面に倒れていた。幸い誰も僕には気が付いていない。焼き切れるように起こる頭痛をこらえて、立ち上がった。頭痛?なぜ痛覚が働くんだろう?

ピシッ

どこかに罅が入る音がする。

よせ。やめろ。考えるな。


頭がクールダウンしたので、「散歩」を再開した。
道がある部分の前までたどり着いた。足を踏み出そうとする。

ピシッ。キシ。キシ。ミシッ。

頭痛はどんどんと酷さを増す。熱を帯びて、僕は今まで出せなかった一歩を踏み出した。

瞬間。


アタマノナカニ。ナニ。カ。ガ。


「あっ」

声を出すのが精いっぱいだった。頭の中に大量のナニカが流れ込んでくる。

「あっ。あっ?」

Y……u……ユ……UUUU……::ウ……K……

よくわからない情報はどんどんと頭に流れ込んでくる。

「ああああああああああああああああああああああああああああ」
頭痛は全身への激痛と変わり、ボクをやいていく。ぼやけたあたまでなにもかんがえることができない。

その時、視界の隅に、白衣を着た見知らぬ男を見つけた。見知……らぬ……?僕はこの男を…知っている…?そんな思考を最後に、かすんでいく視界の底へと僕はたどり着いた。
暗くなった視界にくぐもった声が反響する。

「なぜだ……。もう2度目だぞ……。」
「どうしますか」
「まあまだ様子見でよかろう。ただ、今回はきっちり壊しておけ。作業は3回以上は必ず行え。人格と記憶を破壊したら、今回は必要最低限の情報だけを与えろ。それで駄目なら破棄だ。」

そこで僕の意識は途切れた。



第一章「記憶邂逅」

目が覚める。起床。
目を開けると白い天井がある。現在28日。午後7時。6時までに情報更新に行かなくてはいけない。
自転車に乗り、役所まで届出にいった。
「更新情報の届け出。」
「もう受付は終了しています。全員確認しました。」
「僕は更新に来ていない。」
「代理の方が来ました。」

会話は終了。帰宅する。


ピシッ……。

何か、おかしい。必要最低限のことしかしていない。周りの人は笑っていない。
記憶に齟齬がある。何か、どこかに行かなくてはいけなかったような気がする。

だが瑣末なことだ。やるべきことは終了した。帰宅。


布団を敷き、僕は眠りに…。
「あぁ、まだあそこに行ってない。」

……今僕は何を口にした?
「あ、そこ…?」

ピシッ……。

大量の光が僕の脳に焼付く。
「あぁッ、くっ」

み、ち。さん、ぽ……。

「待て、情報の整理が先だ……。」
なぜ僕は口にしている。必要最低限のことだけで十分ではなかったのか。

ミシッ。

脳の回路が、体の神経が、音を立てている。変われ、戻れ、と。

そしてまたくる。フラッシュバックが。

「――――――ッ!?」

声は上げない。上げてはいけない。やつらがくる。
奴らとは誰だ。白衣の男だ。

フラッシュバックは収束していく。

そして僕は思い出した。1つ前まで。

「戻った」
思考回路はレベルが一つ上がり、きちんと物事を考えることができるようになっていた。そして、今の状態だとまだ思い出していないことがある。
「散歩に行かないと」
ただ、加減を誤って今回のように必要以上の情報を得ようとすると、やつらに気付かれる。そしてやつらは僕の意識が途絶える前に聞いたことが確かであれば、僕は今回しくじれば、


死ぬ。


そのイメージが、又一つ記憶を掘り起こす。



僕が僕になり始めたころ、誰かもう一人、この場所にいた気がする。黒い艶のある長い髪が綺麗で、顔に幼さの残る少女。
僕は彼女と出会ってしまった。あの道路の先で。あの道路の先に、森がある。

「この区画はなんだ。」
少女は僕の声に振り返ると、一瞬苦痛に歪んだ顔を見せた。
「ここ、外に繋がってるんだよ」
少女は僕の声にそう答えた。一瞬で苦痛に歪んだ顔は消えた。
何かに、すがっているような目だった。
「そ、と」
少女は驚いた顔で僕を見る。
「貴方、私を捕まえたり通報したりしないの?」
「そんなこと、できない」
僕は、彼女を捕まえなくてはいけないことを知っていたのに、そう答えていた。少女は、顔を輝かせ、期待半分、不安半分で僕に問いかけた。
「ねぇ、貴方はどっち?」
そう笑顔で聞く彼女に、僕は何も答えることができなかった。
「ねぇ、私のこと、わかる?」
頭は、一つの形を浮かべていた。僕はそれを何とか口にしようとするが、どうしても翻訳できない。やっとのことで音を漏らす。
「S……ク……?」
彼女は泣きそうな顔で僕に叫ぶ。
「そ、そう!あと少し!思い出して!私のこ…」
と、と言い終わる前に彼女は地面に伏せた。後ろに、白衣の男がいた。手に持っていたのは黒い棒。

「くそ、どこから…。この女、なぜ壊れていない…?」
僕の背後からも何かが振り下ろされ、僕は気を失った。


僕はそんな記憶を読み取っていた。
「そう、確かにいたはずだ…。彼女は、なぜ今この場所にいないんだ…?」
彼らにつかまったのか…?助けなくては…。どうやって…?
「ひとまずまだ時間はある。明日、いろいろ調べてみよう」
僕は眠りについた。今までは、眠るというより充電ってイメージだったが、僕は以前の僕を取り戻し始めている。この分なら帰れるかもしれない。

帰るって、どこに…。



目が覚めた。白い天井がある。意識は大丈夫なようだった。僕は改めてこの場所について考えてみる。
作品名:last child 作家名:紅蓮