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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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傀儡士紫苑 in the Eden

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 つかさの視線の先にあったのは特価商品の現品限りのメモリだった。
 あからさまに素早い手つきでつかさはメモリの箱を手にしていた。ふと、つかさが横を見ると、同じ学校の制服を来た生徒がにやけていた。知らない生徒だが、つかさは無理やり何くわぬ顔をして、素早い脚でレジに向かい会計を済ませた。
 そして、逃げるようにして店内を出た。
 あの店には探していた影はいなかった・・・…と思う。
 つかさそのままその足で3階の漫画喫茶に向かった。あの影は漫画など読みそうにないような気がする。けれど、漫画喫茶には別の物もある。
 店に入ってすぐの場所からでは店内の客は見えなかった。
 仕方なくつかさは漫画喫茶を利用することにした。
 探している影がオープンスペースにいればいいが、個室にいたら探すのは難しいかもしれない。
 つかさは漫画棚には目もくれず、パソコンスペースを見て回った。
 簡単な板で横のパソコン台と仕切っているスペースの横を通りかかったとき、凄まじい音と速さでキーを打つ音が聴こえた。すぐにその場所にいくと、ディスプレイの前に座って、キーボードを奏でている影の後姿あった。
 その席の番号を確認して、つかさは少し離れた場所のパソコンの前に着いた。
 素早い手つきでつかさはパソコンを操作し、先ほど確認したパソコンに簡単なメッセージを送信した。
 ――瑠流斗さんに仕事の依頼があります。
 返事はすぐに返ってきた。
 ――パスワードは?
 仕事を依頼するときに必用な秘密の暗号だ。つかさはそれを知っていた。
 ―――666
 これは単純な数字の羅列ではなく、魔を意味する言葉だ。
 ――20分後に駅近くのラフィーナで待っている。
 という送信が相手からあり、つかさは返事を返そうとメッセージを送信したが、相手へのメッセージ送信が制限され、音信不通になってしまった。
 仕方なくつかさはレジで会計を済ませて店を出ることにした。
 ラフィーナの場所は?自分のパソコン?で調べた。店は飲食店――BARだった。
 さすがに制服姿で入るのはマズイだろうと思い、つかさは店に下りる階段の前で相手を待った。相手が自分よりも後に来ることは漫画喫茶を出るときに確認済みだ。
 指定の時間きっかりに影は姿を見せた。
 全開にされたシャツから覗く十字の刺青。間違いなく瑠流斗だ。
 店に入っていこうとする瑠流斗の腕をつかさが掴んだ。
「ちょっと待って」
「援交ならお断りだよ」
 こんな言葉を言われて、思わずつかさは言葉を詰まらせた。
「……ち、違うし! ウチが依頼人」
「キミがかい?」
 瑠流斗は不審そうな眼でつかさを見ている。
「正真正銘ウチが依頼人。制服姿のままじゃお店に入れないからここで待ってたの」
「それはすまないね、依頼人が女子高生だとは思わなかったから。場所を替えようか」
 歩き出した瑠流斗は地下には降りず、ビルの上を目指して階段を上がりはじめた。どこに向かうのかと付いていくと、屋上に通じるドアまで来た。
 ドアノブごと鍵を壊した瑠流斗が先に出た。
 屋上は冷たい風が吹いていた。
 この時期は日が暮れるのが早く、薄闇が空を覆おうとしている。
「誰を殺して欲しいんだい?」
 単刀直入に瑠流斗はつかさに尋ねた。
「あ〜っと、暗殺の依頼じゃないけどオッケー?」
 瑠流斗は殺し屋だった。
「内容にもよるね」
「プロなのに意外に柔軟なんだ」
「時代が時代だからね」
「なら今日マドウ区の工事現場に機動警察が出動した事件について教えて」
「同業者かな?」
「近からず遠からずじゃダメ?」
 瑠流斗は少し考え込んでから口を開いた。
「いいよ、教えてあげる」
 それは甘く囁くような声だった。

 屋上の風を浴びながら瑠流斗が尋ねる。
「事件のなにが知りたいんだい?」
「あの女は何者なの?」
「朱の一族のひとり。レムリア家の三女、メルフィーナ・レムリア」
「朱の一族?」
「強靭な生命力を持ち、血を糧とする一族のひとつ」
 想像していた以上の情報を持っている。瑠流斗が持っている情報のソースはどこなのか、彼の依頼人だろうか?
 しかし、プロとして易々と依頼人から得た情報を他人に教えるだろうか。
「それってウソじゃないの?」
 と、つかさが疑うのも当然だった。
「なぜに?」
「だって仕事の話を赤の他人のウチにするなんて、まあ教えてって頼んだのはウチだけど、そんな簡単に教えてくれるなんて思ってなかったし」
 瑠流斗は微笑した。
「その答えは簡単さ。仕事じゃないから」
「はぁ?」
「彼らに個人的な用がある。その辺りは詮索しないでもらいたい」
 疑問のキーワードにつかさはすぐさま反応した。
「彼ら?」
 彼女ではなく、彼。単数ではなく複数。
「そう彼ら。レムリア家――特に当主といさかいがあってね」
 メルフィーナひとりでも厄介だというのに、似たような存在が複数いることになる。
 ただ今は表に姿を現しているのはメルフィーナだけである。
 メルフィーナが復讐を遂げようとしている相手は蘭魔。過去になんらかの因縁があったと思われる。
 過去にも似たような事件があったらしいが、愁斗が事前に調べたところによると、25年近く前の出来事だった。そのときに蘭魔とメルフィーナの因縁が生まれたのか、詳しい情報までは調べられなかった。
 つかさの前にいる瑠流斗という男は、25年前の情報を握っているか?
「25年ほど前にもメルフィーナが帝都で事件を起こしたらしいけど、そのあたりについて知ってる?」
「そのときの事件にボクは関わってない」
 瑠流斗は言葉を続ける。
「けどね、生命科学研究所には少しだけデータが残っていたよ」
「ちょっ、ちょっとまさか……」
 解けないと思われた方程式が解けたような驚き。
 瑠流斗いう男はハッカー?ルシフェル?とコネクションがある。
 違う。
 つかさは直感した。
「あなたが伝説のハッカー?ルシフェル??」
 瑠流斗は含み笑いを浮かべるだけで、黙して語らなかった。それをイエスと取るかが問題だ。
 口を閉ざす瑠流斗につかさは話題を戻して質問する。
「生命科学研究所のデータってなんなの?」
「当時ウィルスに感染して、唯一発病しなかったドナーがいたらしい。帝都病院で精密検査を受けたときのデータがあの研究所に残っていたよ」
 帝都病院と生命科学研究所は提携している。どちらの親会社も秋影コーポレーションだ。
「情報はそれだけしかないの?」
 つかさは少し不服そう顔をした。生命科学研究所には、多くの重要な情報があると思っていただけに、肩透かしを食らった気分だ。
 だが、ここから続く瑠流斗の話が本題だった。
「あまりにも過去の事件のデータが残っていないことを疑問に思わないのかい?」
「たしかに……」
「理由はおそらくそのドナーが事件そのものを隠蔽しようとしたからに違いない」
「発病しなかったドナー? もしかしてそのドナーって大物政治家とか?」
「大物には違いないね。ボクも彼女と会って話をしたいんだけど、なかなか会うことができなくてね」
「いったい誰?」
「姫野グループ会長、姫野ユウカ」