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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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傀儡士紫苑 in the Eden

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 しかし、愁斗が得体の知れない力を秘めた存在であることは、あの〈地獄〉での戦いを思い起こせば嫌でも理解できる。あの力を持ってすれば、今の話を実現することも可能かもしれない。
 あの場所で聴いたこの世のものとは思えない呻き声が、まだアヤの耳から離れない。
 まだ蒼白い顔をしているアヤに愁斗が詰め寄った。
「僕は全て話した。ところで、君はなぜこんな山奥に?」
 それが好奇心による疑問ではなく、なにかを掴んでいる質問だとアヤはすぐに気づいた。
 もう隠す必要もないような気がした。
 精神的に疲れ果て、追い詰められ、すべてを吐き出したい気分だった。
「殺したのよ……付き合ってた男を殺したの……他に女なんてつくるから、殺してやったのよ!」
 叫んだアヤの目からは涙がとめどなく零れ落ちていた。
 恋人殺害を吐露したアヤは泣き崩れて地面に座り込み、髪の毛を掻き毟って床に頭を埋めた。
 アヤは沈黙しながら背中を丸めて震え、やがて静かな部屋にケタケタと嗤い声が響いた。
 大きく肩を震わせるアヤは笑いながら顔を上げた。その目は赤く膨れ上がり、口は醜悪に歪んでいる。
「きゃははっ……きゃははは……屍体は……あんたたち屍体をどこに隠したのよ!」
 野獣のごとく咆えたアヤは狂気の眼で愁斗たちを睨みつけた。
 今にも襲い掛かってきそうなアヤに動じず、愁斗はアヤの後ろを指差して嗤う。
「……屍体ならあなたのすぐ後ろに」
 アヤが振り向くと、そこには自分が殺したはずの男が!
 蒼白い顔をして眼は濁り、頭から出た血は黒くなって髪とからまって固まっている。目の前の男からは生気が感じられなかった。
 やはり、男は死んでいた。
 屍体は大きく口を開け、アヤの頚動脈に噛み付く。
「ぎゃぁぁぁぁっ!」
 眼を剥いて限界まで開いた口から黒い血の塊が吐き出され、アヤは噛み千切られた首を手で押さえながら、力なく背中から転倒したのだった。
 床で身体を痙攣させながら、アヤは出血性ショックで死んだ。
 復讐を果たした男の屍体は、また動かぬ屍体に戻っていた。
 二つの屍体を考え深げに見下ろす愁斗。そして、愁斗の手が煌きを放ち、その輝線は空間に傷をつくった。
 その傷は唸り、空気を吸い込みながら広がり、空間に裂け目をつくる。
 闇色の裂け目から悲鳴が聴こえる。泣き声が聴こえる。呻き声が聴こえる。どれも苦痛に満ちている。耳を塞がずにはいられない。
「〈闇〉よ、喰らえ!」
 裂けた空間から〈闇〉が叫びながら飛び出した。
 〈闇〉は二つの屍体の腕を掴み、足を掴み、胴を掴み、躰に絡み付き、呑み込んだ。
 床に血を一滴も残さず、〈闇〉は泣き叫びながら裂け目に還っていく。
「これで終わりだ」
 愁斗が呟くと、〈闇〉の還った裂け目は完全に閉じられた。
 目を瞑る愁斗の傍らで、アリスが尋ねる。
「屍体が蘇って復讐をしたのか、それとも愁斗様が操ったのでございますか?」
「さあ?」
 惚ける愁斗は艶やかに嗤った。

 そして、全ては〈闇〉の中へ――。

 傀儡館(完)