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君が袖振る

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第一章  龍介と拓史


「龍介さん、嬉しいです。こんな私で良ければ・・・・・・だけど一応お受けします」

 龍介は半年前に那美子にプロポーズした。そして、これが那美子から返ってきた言葉だった。

 那美子は二つ違いの高校の後輩。そのためか、龍介は学生の時の那美子のことをよく知らない。

 龍介が初めて那美子に出逢ったのは、京都の会社に勤め出して、四年が過ぎた頃のことだった。連携会社のパーティで、事務局のスタッフをしていた那美子に出逢った。

 最初は顔見知り程度のものだったが、いろいろと話しを交わしている内に、地方の同じ高校の出身だとわかった。それが切っ掛けとなり、意気投合してしまった。

 そして、多分そういう運命だったのだろうか、その成り行きにまかせて、龍介は那美子と付き合い始めた。

 だが、それから一年して、龍介は転勤の辞令を受けた。日本海側にある事業所への異動だ。現在はその小さな町で暮らし、そこで働いている。

 そのため那美子とは遠距離とまではいかないが、少し距離を隔てた恋愛となっている。しかし、龍介は二週間に一度は京都へと戻り、那美子とのデートを繰り返してきた。
 
 那美子は少し小柄で色白、瞳がくりっとしていて可愛い。いわゆるお人形さん系だ。だが目を見張るほどの煌(きら)びやかさはなく、どちらかと言うと質素で地味なタイプだ。

 こんな二人の恋愛、それは恋の情熱に燃え上がるほどのものではなく、淡々としたものだった。しかし龍介にとって、それは鬱陶しいということではなく、不思議に癒され、心地よいものだった。

 こんな気持ちを、もし龍介がずっと持ち続けて行くことができるなら、那美子とともに穏やかに人生を歩んで行けるのではないかと考え始めた。

 そして、三十歳には後一年少し、もうそろそろ身を固める時期かなとも思い覚悟を決めた。こうして龍介は、半年前に那美子にプロポーズをしたのだ。

 那美子はそれに特に驚く風でもなかった。まるでそれが自分の宿命のように考えていたのだろう、「嬉しいです。こんな私で良ければ」と受け入れてくれた。

 だが後の言葉、「だけど一応」が龍介には若干引っ掛かった。しかし、断られたわけではない。


作品名:君が袖振る 作家名:鮎風 遊