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てっしゅう
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novelistID. 29231
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大切な人 後編

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大切な人 後編


「ねえ、雄介さん今日で私たち15回目ね、こうして逢うの」
「15回か・・・なんだかもっと逢っているような気がするよ。靖子はそう思わないか?」
「そうね、初めて逢ったのが10月だったから・・・七ヶ月目よね。覚えている?最初にドライブした時のこと」
「ああ、もちろんだよ」
「私が誘ったの?あなたの方よね、ホテルに行きたいって言ったのは?」
「そうだったかな・・・」
「私のほうから言うわけないよね、女だし」
「どうして?別に構わないんじゃないの?」
「そんな女じゃありません!それともあなたそう思っていたの?」
「まあいいじゃないか昔の事は。それより今日はその時と同じコースを走って同じようにしようか?」
「いいわね、そうしましょう。初めての時のように初々しくして欲しい?」
「そん趣味は無いよ」
「まあ!せっかくその気分だったのに・・・おばあちゃんでゴメンね!」
「そんな事言ってないだろう?直ぐそれだ・・・」
「直ぐ何よ!あなたには解らないでしょうけど、気になるのよ。我慢してくれているのよね、解っているのよ」
「靖子、ボクは我慢なんかしてないよ。いつも言っているじゃないか、今のキミが好きだって、可愛いって。本当なんだから」
「ありがとう。嫌な女ね私って。嫉妬深くて、あなたの一言一言全てが気になる性格が。そのうち嫌われちゃうって自分に言い聞かすんだけど
直らないのよね・・・やっぱり歳なんだ。悲しいけど。あなたより若かったらきっとこんなふうには思わなかっただろうし、奥様にも嫉妬する
ことなんか無かったでしょうに」
「ボクは今のままで十分なんだ。あまり考えるなよ。それよりちょっと気になることがあって話をしたいんだけど聞いてくれるか?」
「えっ?急にどうしたの」
「車を停めてから話すよ」

少し走って高速を降りた街道にあった喫茶店で庄司は話を始めた。

「気になることって何?」靖子はじっと眼を見てそういった。誰か他に好きな人が出来たのかしら・・・まさか、ドキドキしながら
雄介の返事を待った。
「身体のことなんだけどね・・・首にしこりが出来て気になったから病院へ行って診てもらったんだけど精密検査をしないと解らないから
総合病院を紹介するって言われて今度受診に行くんだよ」
「ほんと!そんな事一言もいってなかったじゃない!何故話してくれなかったの?」
「心配かけたくなかったし、たいした事は無いと思っていたからね・・・でも精密検査を受けなさいって言われて、やっぱり話そうと
思ったんだよ。検査結果次第では入院って言うことになるかも知れないから覚悟はしておいてくれないか」
「何の覚悟をしろって言うの・・・悪い病気じゃないって、大丈夫よきっと・・・」
「そう願いたいよ」
「今日はやめましょうか?身体に障るといけないから」
「それでいいのか?靖子は」
「仕方ないでしょ。あなたの身体のほうが大切だもの」
「仕方ないって言うなよ・・・本当はイヤなんだろう、このまま帰るのは?」
「雄介さんが大好きだから、我慢は出来るの。あなたのことを思わない日は無いの。身体を大切にしてまた仲良くすればいいじゃない。
それまで我慢してるから、無理はしないで。嘘じゃない本心で言ってるのよ」
「すまん・・・」

そういえば今までのような元気さが見られない。きつい下ネタの冗談も言わないから本当に具合が悪いんじゃないのかと靖子は心配した。

これまでは逢う日は必ず愛し合ってきた。それも二回とか三回とか気分次第で複数になっていた。若いんだなあ雄介は、と思い知らされる
瞬間でもあった。自分は精一杯応えているつもりだったけど、きっと満足出来ていなかっただろうと嫉妬する。世の中の全ての自分より若い
女性にだ。せめて雄介と同年代に戻れたらもっと積極的になれるのに、それが悔しかった。

帰りの車の中は口数が少なくなっていた。お互いに相手を気遣ってしまったせいだ。言葉がうまく出てこない。
泣きたくなる気持ちを抑えてずっと運転している雄介の横顔を見つめていた。

鼻声混じりになって来た受け答えに雄介は優しく応じてくれた。
「靖子、優しい気持ちが伝わってくるよ・・・心配かけて本当にすまない」
「雄介さん、あなたが・・・全てなの。毎日毎晩あなたが悪い病気じゃないこと祈っている・・・あなたも私のこと想っていてね、お願いだから。
自分を支えることはそのことだけだから」
「ああ、靖子のこと毎晩いや呼吸をする度に考えるよ。大丈夫だ、少し待っていてくれ・・・土曜日が検査の日だから日曜日に電話するよ」
「ううん、いいの。奥様がいらっしゃるでしょ?掛けれる時で構わないから、待ってる」
「そうだな・・・妻に知れる事はまずいからな」
「そうよ、私は離婚出来るけど、あなたは可愛い奥様を淋しがらせてはいけないの。絶対にばれないようにして」
「わかった、必ず連絡するから」

自分でそう言いながら、奥様と別れて自分と一緒になって!と叫びたかった。もう何もかも捨てても構わないと自分では思っていた。
夫は好きな女性がいるし、子供はもう独立しているし、捨てるものなんて・・・夫の収入ぐらいが残念なだけ。それも協議離婚すれば
年金まで生活のために貰えるようなことを聞く。たとえ雄介が離婚を渋っても自分は一人で生きられる。それほどの覚悟が無くては
愛してはならない相手なんだと強く心に誓っていた。

待ち合わせた文化会館の駐車場に着いた。
「じゃあ、連絡するから・・・今日はありがとう」
「雄介さん、頑張ってね。私今日はあなたが見えなくなるまでここで手を振ってお別れしたい」
「そうか、すまん。じゃあ行くよ」
「うん、絶対に・・・大丈夫よ」

靖子は雄介の車が交差点を越して見えなくなるまで歩道から手を振って見送っていた。
「大丈夫・・・必ずなんとも無いって連絡が来るわ。雄介さんに限って悪い病気に罹るなんて思えないから・・・」
そんな靖子の切ない願いも空しく日曜日に掛かってきた雄介の電話は靖子にとって衝撃だった。

「雄介さん!電話して大丈夫なの?」
「ああ、妻はいないから」
「どうだったの?解ったの?」
「うん、入院しなければいけなくなった。三ヶ月ほど掛かるらしい。もう逢えないな・・・本当にすまん。許してくれ」
「ええ?どうして?三ヶ月したら逢えるんでしょ?それに何の病気だったの?」
「靖子、聞いてくれ。入院して治療して、手術したらもう今までのボクじゃなくなる気がする。キミに余計な心配はかけたくない。
忘れてくれないか、勝手を言うけど」
「イヤよ!急に何を言うのよ・・・私がどう思っているのか知っているんでしょ?待っているから・・・何ヶ月でも。お願いそんな事言わないで!」
「苦しませないでくれよ・・・ボクは・・・すまん言えない・・・」
「雄介さん、今は気持ちが高ぶってらっしゃるのよ。落ち着いたらお見舞いに行くからゆっくり話しましょう・・・ね?」
「誰にも会わないよ。面会謝絶にしてもらうから」
「・・・私のこと嫌いになったのね。はっきり言っていいのよ、飽きたって!」
「何言っているんだ。そんな男に思えるのか?誰よりもお前が好きだ」
「言ってくれることとやることが違うじゃないの!信じられない・・・」
作品名:大切な人 後編 作家名:てっしゅう