音楽レビュー
DODGY『FREE PEACE SWEET』
この何とも泥臭く、古典的でありながらドラマチックで考え抜かれたメロディー、だがそこに宿っているのは何よりも平凡さではないだろうか。だがただの平凡さではなく偉大な平凡さである。DODGYの世界観にとりわけ特色があると私は考えない。ごく平凡な出来事をごく平凡な感性で歌い上げているのである。だが、その平凡さ、平凡であり続けることに大きな力を感じる。鬱屈したり激昂したり停滞したり否定したり、ロックは忙しかったはずだ。だがそういう情念のほとばしりを音楽にするのは逆にたやすい。音楽にするのが難しいのは、全く以て平凡な感情を、全く以て平凡に描き出すことだと思う。
DODGYが平凡でありながらポップに走らないのは、ポップは平凡ですらないからだ。ポップは平凡としての強度を備えていない弱い平凡である。彼らはあくまで強度を備え、音楽としての構築性を維持したまま偉大な平凡さを歌い上げるのである。彼らの曲は、口ずさみたくなるようなメロディーを幾つも備えている。人間が当たり前に生きていく上で当たり前に漢字当たり前に歌うような、人間の自然な生活に根差した音楽を作っている。平凡な生活ほど強力なものはなく、彼らはその強力さを十分に理解し音楽を作っていたと思われる。