小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

音楽レビュー

INDEX|31ページ/65ページ|

次のページ前のページ
 

CLOSURE IN MOSCOW『FIRST TEMPLE』


 今、若いミュージシャンたちが、テクニックやエモーションに走っていて、その手の音楽が幅広く受け入れられていたりする。CLOSURE IN MOSCOWもまた、技巧的で激しく、複雑なリズムと旋律によって聴く者を幻惑する。歌詞の内容は、僕の孤独や痛み、君との関係という、いかにも若者らしい、「僕」の中に閉じこもったものである。
 私の問題関心は、なぜ若いミュージシャンたちが、その青臭い思想でもって極めて複雑な音楽を作りたがるかである。私が思うに、それは、若者たちが、自らの存在根拠を自らの固有性の中にしか認められないことが原因ではないかと思う。他者との関係であったり、社会における役割であったり、そういうところにいまだ存在根拠を見出せない若者たちは、「仲間」内で共有される親密感であるとか、自分自身であるとか、そういうところにしか存在根拠を見出せないのではないだろうか。「仲間」内にいることによって自らの存在を確証するものはポピュラー音楽に走り、自らの固有性によって自らの存在を確証するものは、アートに走る。
 思想を定着させるのには成熟が必要である。それには実体験とある種の悟りが必要であるからだ。だが、技術を定着させるのにはそれほど成熟が必要ではない。主に感覚さえあれば、技術は相当程度定着させることができるのである。それゆえ、自らの固有性に存在根拠を見出す若者たちは、容易に卓越することのできる技術を磨くことによって、自らを差異化する。自分が固有の存在であるためには、自分はほかの人と違っていなければならない。ほかの人と違っていることを確証するのが、技術による卓越なのである。しかも、音楽の場合、形式と内容の癒着がはなはだしいので、技術を磨くことで形式を磨き、それによって固有の内容を生み出すことが容易なのである。
 他者との関係や社会における役割に居場所を持てず、さらには仲間内のありふれた価値観にも抵抗を感じる、それでも思想的にはいまだ成熟していない、そんな若者たちは、自らの存在根拠を自らの固有性、つまり他人と違っている点に求めようとする。他人と違っているためには思想的には若すぎるので、技術によって自らを他人から差異化しようとする。技術によって差異化するのが容易な媒体が音楽なのである。若者たちが複雑な音楽によって自己を表現しようとする動機はその辺にあるのではないか。

作品名:音楽レビュー 作家名:Beamte