音楽レビュー
BUMP OF CHICKEN『COSMONAUT』
バンプにおける「宇宙」のモチーフは最初期から現れていた。「ガラスのブルース」で、星になる猫。そして彼らの名を一躍有名にした「天体観測」はまさに宇宙と地上との距離感を歌い上げていた。だが、今回のアルバム『COSMONAUT』では、宇宙性は彼らの世界観そのものとなっている。
歌詞カードの背景には、地上から星がちりばめられた宇宙へと紙飛行機が飛んでいく絵が描かれている。紙飛行機は宇宙へと飛んでいくが、この宇宙とは、本当に空にある宇宙だけではなく、普通に暮らされている生活空間でもあるし、人間関係でもあるし、記憶の領域でもあるのだ。バンプは飛躍する、宇宙へ、そして生活へ、そして過去へと。だから、彼らにとって宇宙とはすべての領域であり、彼らはあらゆる領域へと紙飛行機を飛ばし続けるのだ。
宇宙には恒星がちりばめられている。一人一人の人間はこの恒星なのだ。この恒星は、何億光年と互いに隔てられていて、それ故すさまじい孤独の極みにありながら、輝くことをやめない。輝くということは、いろいろ考えたり、やさしさを振りまいたり、ときには愚痴を言ったり、そういう孤独な行為でもあるが、一方で、他の恒星の光を受け取り、それに対して返事をする、そういう光でもある。紙飛行機は、この恒星の光そのものであり、恒星の光の手作り感、やさしさを表現している。
精一杯 精一杯 笑ったでしょう
(「透明飛行船」より)
他人に向けて精いっぱい優しさを向ける。そしてこの詩行は過去の回想でもある。過去の記憶の空間もまた宇宙なのであり、宇宙の暗闇が人と人とを隔てている。だが、この暗闇はとても優しい。この真空は様々な人のぬくもり、考えで満ちているのだ。
君の願いはちゃんと叶うよ 怖くても よく見てほしい
(「魔法の料理〜君から君へ〜」より)
バンプはあらゆる領域を宇宙化し、それゆえあらゆる存在の孤独を明らかにする。だがそれらの存在は一つ一つ輝きを放っており、互いに呼びかけあっていて、互いを隔てている膨大な真空は、やさしさでいっぱいである。どんな嫌なこと、醜いことであっても、光で包み込む。どんなに煩悶していても、他の存在からの光が届く。それは、何億光年と離れた人や存在への、決して絶望しない、かといって無駄な希望も抱かない、無垢でやさしい無償の呼び掛けであり、それには優しく、同じような無償の呼び掛けが返されている。こんなにも遠くてもこんなにも近い。バンプにとって世界とはそのような宇宙であり、生きることとはそのような宇宙の片隅でひっそり光り続け、紙飛行機を飛ばし続けることなのだ。