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手編みのマフラー

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幾つかのピークを過ぎて、山小屋に着いたのは午後十一時頃だった。
 去年の暮れ頃から編みはじめた徹さんのマフラーが、やっとできたから季節外れのプレゼントをしたいと、美貴が電話で云って来たのは、十四年前の真夏のことだった。一時間も電話を独占して父に叱られたのが、ずっと昔のことになってしまった。
「私は最近独立して、車の修理屋をやってます」
「その若さで独立ですか。凄いな」
 吉村は荷物から酒を出し、山小屋の老主人から湯のみを二つ借りた。
「実はね、五年前の今日が妻の命日なんです。弟のバイクの後ろに乗せて貰って、事故に遭ったんです。八年前に妻と知り合ったのが、この山小屋でした」
「弟さんも一緒に亡くなったんですか?」
「そうです。関係を疑っていたんですが、今では確かめることもできません。そんな必要もありませんがね」
作品名:手編みのマフラー 作家名:マナーモード