キスマーク
ふたりで順番にシャワーを浴びて、ルームウエアに着替える。
「最初からこういうつもりだったの?レストラン、友達に教えてもらったっていうの、嘘なの?」
「それはホント。一緒に仕事してる奴でさ、忙しくなる前に彼女と来たら、すっごい美味かったんだって。で、今日予想より早く仕事が片付いたから、お前を連れて来ようと思って、店訊いた」
「そうなの」
「それならついでに部屋も…と思って」
「それはどういうつもりで?」
「どういう…って…」
ベッドの端に座って、無言で向かい合う。
「察しろ!」
その瞬間に押し倒された。
「きゃあ!」
ルームウエアを脱ぎ、下着を取り、お互いの体に触れ、体中に唇を押し当てた。
見つめ合った後、ぎゅっと抱きついた。
「…どうしたんだよ…珍しいな」
「だって…」
「だって、何?」
「2か月以上、会えなかったんだよ…」
「うん…ごめん」
「でも仕事だから、ずっと…我慢してた…会いたかった…」
言葉の最後は、涙声になっていた。泣くつもりなんてなかったのに。
もっと長い間会えない恋人同士だっているかもしれないのに、私は2か月で、彼の存在をこんなにも恋しがっていた。
会いたくて、それでも会えなくて、電話もメールも…きっと「会いたい」と言って彼を困らせてしまいそうだから我慢して、独りの部屋で携帯電話を握りしめて何度泣いただろう。
こうやって触れ合う事はしなくても、ただ顔を見られるだけでも良かった。
声が聞けるだけでも良かった。
…勝手に我慢したのは私だ。
ほんの数分の電話でも、たった数行のメールでも、彼からのリアクションがあれば会いに行ってしまいたくなる自分を抑えられる自信がなかった。
そうやって勝手に我慢して、それほど会いたかった人が今目の前で、私だけを見ている。
「ごめん…」
やさしく抱き締められて、私は彼の中で子供のように泣いていた。
生まれた時の姿のまま。
「…ごめん……落ち着いた」
「こっちこそ、お前がこんなになるまで放っておいて…」
私は首を横に振って
「仕事だもん……今日会えて…嬉しい」
もう一度、彼の体にしがみついた。
それが合図になって、彼がゆっくりと私をベッドに横にする。
唇が重なり合う。
彼の唇を、手を、体中に感じ、私はその幸せに小さく声を上げ、体を震わせる。
嬉しくて幸せで涙が流れた。
薄暗くした部屋では彼に気付かれない…そう思っていたのに、
「…もう泣くなよ」
私の顔を包み込むようにした彼が、耳元で囁いた。
「……嬉しいの…あなたと一緒にいる事が…」
彼の両手が私の頬を拭い、私の腰に触れる。
見つめ合いながら、彼と私はひとつになる。
お互いが溶け合って混ざり合うようなひととき。
終わった後、うっすら汗を帯びた肌を合わせたまま、ベッドの上に横になっていた。
2人とも、しばらく黙っていた。
ふと、彼が動いて、私の胸に唇を押し当てた。
「…痛っ…」
彼が唇を離すと、そこにはくっきりとキスマークが付いていた。
「ここなら服着れば見えないだろ」
「うん…」
「これが消える前に…また会おう」