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キスマーク

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待ち合わせに指定されたのは、ターミナル駅近くのホテルのラウンジだった。
私は仕事帰りで、冷蔵庫の中身を思い出しながら、今夜の夕食のメニューを考えていた時に彼から電話があったのだ。
『週末だし、近くにいるから会わないか?食事しよう』
ずっと忙しいと言っていた仕事が一段落したらしい。

「お待たせ…久しぶり」
「久しぶりだな」
2か月半ぶりぐらいの再会が嬉しくて、言葉もなくただ笑顔でお互いを見つめ合った。
付き合い始めの頃のようだ。
「この上のレストラン、美味いって友達が教えてくれた」
彼が先に立って歩き出す。
エレベーターに乗り込む。
扉以外が鏡張りのエレベーターは、広さの感覚を狂わせる。
ものすごいスピードで上昇するエレベーターに、耳が痛くなる。
誰もいないエレベーターで、再会のキスをする。
レストランのあるフロアに到着する。
扉が開くと、そこには東京の夜景が広がる大きな窓があった。
「うわぁ…」
思わず窓に駆け寄る。しばらく外を見ていた。
「ねぇ、キレイよ、ほら」
彼が隣りに立つ。
無言で私の腰に腕を回した。
「……」
思わず彼を見上げると、
「……行くよ」
照れ隠しのように、私の目も見ずに歩き出す。
…恥ずかしがりながらこういう事をする彼が、私はとても好きだった。

お店はほぼ満席だった。
この夜景に週末では、そうなるのも当然だろう。
偶然空いていた、窓際の席に通される。
広さの割に席数が少なく、その分テーブルごとのスペースがゆったりしていた。
耳障りではないボリュームで、ピアノが流れている。

料理は最初から最後まで美味しかった。
美味しい料理はとても不思議で、食べてもすぐにお腹が空く。
「それはお前の食い意地が張っているだけだ」
と彼は言うけど。
「違うわよ。美味しいから、体が次を求めるの」
「同じだよ」
デザートを食べながら、彼が苦笑いをした。

エレベーターホールには誰もいなかった。
「また来ようね」
「あぁ」
「あ、いくらだった?…お会計」
「2か月以上放っておいたから、今日は全部俺が出す」
断られてしまった。
「いいの?」
私は、デートのお金は男が出すのが当然、と考えている女が嫌いだ。
だからお互いの誕生日など以外の、大抵の場合は、どんなお店に行ってもふたりで払う。
(勿論、その辺りの最低限のマナーも心得ているつもりだ)
「じゃ、今夜は…ごちそうになります。ありがとう。来月の誕生日は美味しいお店探しておくね」
「…それだけ?」
「あ、貴方の誕生日だもん、私がちゃんと払うわよ?」
笑った私の腕を掴み、彼が目の前に出したのは…ルームキーだった。
「そうじゃなくて…2か月ぶりだから、ゆっくりしよう?」
私が驚いていると、エレベーターの扉が開いた。

作品名:キスマーク 作家名:すのう