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てっしゅう
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深淵 最上の愛 第四章

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絵美を乗せたベンツは静かに山を下り翔太の住むアパートに向かっていた。GPSで移動を確認した本部長は次に止まった場所に署員を向かわせようと及川と森岡を呼び寄せた。
「2時間以上動かなかったらその場所に向かってくれ。くれぐれも慎重にな。二人に頼んだぞ」
「了解しました」

部屋に入って、翔太が鍵をかけたあと振り返って絵美は抱きついた。どれほど長くこの瞬間を待っていたことか。諦めそうになっていただけにその思いは一層強く絵美の心を支配していた。


絵美は自分が何をしようとしているのか解らなくなっていた。仮にも大阪府警の警視正の立場で本ボシの戸村とこういう形で接していることがどういうことなのか、許されることではないことぐらい十分に承知していた。命令違反どころの罪ではない。本部長を騙して密会しているのだから・・・

幼い頃からの友情が恋心に変わり、将来を夢見始めた自分の心を一瞬にしてかき消してしまった震災の日。あれから15年も月日が流れていたが、忘れようとしても忘れられない傷となってずっと残っていた。翔太が自分たちの追い求めている犯人だと知って、迷い哀しみどうしたらいいのか考えてきた。一つの結論は・・・逢いたい・・・ということだけだった。

絵美は逢って気持ちを確かめて全てを許してから、自首を促そうと思い始めた。翔太との思い出を心と体に残して自分は刑事としての仕事に戻り、事件解決後に辞職しようと決めた。残酷な暴力団員だとは思えないほど翔太は優しくそして悲しい目をしていた。

唇をそっと離した絵美は翔太に抱きかかえられながら、ベッドに連れて行かれた。夢の続きを今から見るんだとそのことだけに気持ちは変わっていた。服を脱いだ翔太の身体には背中に立派な刺青が彫ってあった。
「これが・・・俺だ。イヤなら服を着て帰ってくれ・・・」
「・・・」
「何か言ってくれ、絵美・・・頼む」
「抱いて・・・」
「絵美!」

初めてなのに絵美は自然に翔太を受け入れることが出来た。激しい動きから翔太が果てたときに自分たちの全てが終わったと絵美は抑えきれない快楽の中で切ない哀しみを同時に感じて泣いてしまった。
「ゴメンなさい・・・嬉しいはずなのに泣いてしまって」
「いいんだ。絵美とずっとこうしたかった・・・」
「翔太のことがこんなに好きなのに・・・離れたくない!逢えなくなるなんて、辛いわ。運命って残酷ね」
「そうだな・・・残酷だ。そして俺も残酷なことの罪を償わないといけない」
「罪?」
「ああ、罪だ」

翔太はそう言いながら立って服を着始めた。

「泊まってゆくから」絵美はそう言ったが、
「帰れ。送ってゆくから」翔太はそう言った。

何か思いつめているように感じられた絵美は思い切って聞いてみた。
「翔太、何故今夜は私と居てくれないの?」
「時間が無いんだ。俺はやらないといけないことがあるんだ。すまない・・・もう聞くな」
「すまなくなんか無いよ・・・すまないのは私のほうよ」
「どうしてだ?」
「あなたに隠している事があるから・・・」
「やっぱり・・・結婚していたのか?」
「そんなふうに見えたの?わたし初めてだったのよ」
「じゃあ、なんだ?」
「籾山伸次を逮捕したのは私なの」

ビクっと体が反応して、翔太は今までの戸村翔太に戻っていた。

「絵美!ウソだと言え!」
「ゴメンなさい。でも、信じて・・・あなたを逮捕するためにここに来たんじゃないの。あなたへの思いを断ち切るつもりであの場所に行って、あなたと偶然出逢ってしまったから、気持ちが変わったの。今は昔の絵美なの。だから、抱かれたのよ」
「そんな手を使ってまで俺に接近したかったのか?」
「何言ってるの!翔太、さっきまでのあなたはどこにいったの?」
「お前こそ、さっきまでの絵美はウソだったんじゃないのか」
「私は刑事よ。今回の事件の責任者なのよ。追い詰めて見つけた犯人があなただって気付かされたとき、どう思ったか解る?15年間も探し続けてきた翔太が、私の追い求めてきた犯人だったなんて・・・刑事としての使命を果たすなら、とっくに逮捕しているわよ。私の心の中にあるあなたへの想いを叶えてから・・・あなたに自首してもらいたいと来たのよ。罪を償って何年先になるか解らないけど、一緒に暮らそうよ。刑事は辞めるから・・・」
「ふん、時間稼ぎか・・・そろそろお前のところの刑事がなだれ込んでくる感じだな」
「24時間は猶予を貰っているの。安心して」
「バカか!サツはそんなに甘くなんか無いぞ。お前も利用されているだけなんだから・・・」

「お前も利用されているだけ・・・」そう言った翔太の言葉は妙に絵美の心に刺さった。

「あなたは組に利用されているんじゃないの?」
「なんだと!お前らのような世界とは違うんだ。人情もあるし、義理も堅い。一緒にするな」
「手前勝手な人情と義理じゃないの。社会に通用するものじゃないわよ・・・目を覚まして、翔太。罪を償えば、どうどうと同じ場所で暮らせるわ。私を信じて・・・」

「サツを信じるほど甘くないぞ俺は。絵美、殺さないから今直ぐ出てゆけ」
「翔太は何をしようとしているの?死ぬつもりなの?」
「うるさい!ごちゃごちゃ言うな。時間が無いって言っているだろう。早く消えろ」
「私はどこへも行かない!死ぬなら・・・一緒に死ぬ」

及川と森岡はGPSに示された場所に来ていた。50メートル範囲を集中して探して、駐車場に籾山が証言した黒のベンツを発見した。

「警部!このベンツは戸村のものじゃないですか!」
「せやな。森岡、警視正が危ないで!すぐ兵庫県警に緊急配備を依頼しろ」
「はい、了解しました」
「警視正は大丈夫やろうか・・・どこの部屋だ。俺は二階を、お前は一階を探ってくれ。慎重にな」
「はい、万が一飛び出してきたら、発砲しても構いませんか?」
「やむをえない場合はな。なるべく銃は使うな」
「はい、では行きます」

数分でアパートの周りは警察が包囲した。一軒ずつ尋ねて、住民を出来るだけ避難させた。絵美が居た部屋は二階の中央だった。廊下を歩く足音が戸村には聞こえた。

「絵美!来たぞ・・・やっぱりお前もはめられたな。こっちへ来い」
「どうするの?」
「人質にする」
「ねえ?自首して」
「ダメだ。捕まる訳には行かない」
「逃げられないわよ」
「お前が人質なら大丈夫だ。おとなしくしてろよ・・・俺だって傷つけたくなんか無いから」
「私が抵抗したらどうする?」
「するのか?」
「解らない」
「命の補償は出来ない」
「そんなこと出来るの?私は早川絵美よ。あなたの知っている絵美なのよ」
「言うな!お前はサツだ」

絵美はハンドバッグを取ろうとした。すばやく翔太はそれを振り払い、床に落ちた絵美のハンドバッグから銃を手に取った。
「やっぱりな・・・こんなもの忍ばせて。俺をやるつもりだったのか」
「違う・・・刑事は常に携行しているのよ。解っているでしょ。それぐらい」
「でも、ラッキーだったぜ。これで奴らも手が出せまい」

扉をノックする音が聞こえた。

「警察です。開けてください」
絵美の口を押さえながら翔太は黙っていた。及川は電気メーターが回っていることを確かめて、もう一度言った。