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流れ星

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「杏里お姉ちゃん、今日はたくさんお星様が流れるんだよね」
「そうだね。たくさん流れるからたくさんお願い事しようね」
 妹の麻里は若干七歳の若輩者。私との歳の差は七歳。中学二年の私からすると、妹はまだ人生の事なんて何も解ってないに等しい。
 これから汚い大人達の手に掛かり、汚れていくことも知らずに無垢な笑顔を見せている。
 麻里と私が二十歳になった頃、こんな風にお星様を見上げに公園に訪れるなんてことはあるのかな。

「麻里はどんなお願いをするの?」
 私は雲ひとつない夜空を熱心に観察する妹に尋ねた。
 自宅近くの公園には人影が無くて、私達二人だけが残されている。
 冬の淋しげで、冷たい風が私達の頬を撫でながら過ぎ去っていく。
「まだ言わない。流れ星にお願いしたら言う」
 口を尖らせる妹。その可愛い唇も誰かに奪われるかもしれない。
「そうね。まずは星が流れないとね」
「杏里お姉ちゃんはどんなお願い事をするの?」
「私も内緒。それに麻里、願い事は言っちゃ駄目なんだよ? 心の中に秘めるの。願いが叶うまでずっと」
 麻里はきょとんとした不思議そうな表情を見せると「そうなんだぁ」と納得した。

「寒いよぉ。流れ星早く来ないかなぁ」
「うん。あんまり遅くなるとお母さんに怒られちゃうね」
 早く流れてこないと、お母さん達に内緒で家を抜け出して来たのがばれてしまう。
 麻里は「寒い寒い」と身を震わせ、私の腰に手をまわしてくる。
 私はお腹にまわされた麻里の冷たい手をそっと両手で包み温めた。
 
 
「あっ!!」
 麻里の声は静かな公園の静寂を破った。私は「なに?」と腰辺りから顔を覗かせる妹に訊いた。
 妹は私から離れると、小さな腕を夜空一杯に伸ばし「あれあれ!」と興奮しながら飛び跳ねる。
 訝しげに麻里の指差す夜空を見上げると、そこには明るい光りを放ち、放射状に流れていく流星群が見えた。
 私は余りの神秘的な美しさに絶句しながらも、心の中でそっと早口で三回願い事を唱えた。
 静かな夜空に流れては消えていく流れ星。静寂に心を澄ませながら、不思議な事をしているなと思った。本当に私達の願い事が叶うのなら、人間は魔法使いなのかもしれない。
「杏里お姉ちゃん。どうだった? 流れ星さんに願い事唱えれた?」
「うん。ばっちり! 昨日早口の練習しておいて良かったね」
作品名:流れ星 作家名:桜井悠希