お国の最重要任務
マルクスがリカードに言う。
「眠ったんじゃない。死んだんだ」
リカードが後部座席を見ると、女の子はぐったりと横になり目を閉じていた。
「さて、戻ろうか」
マルクスが車を発進させようとする。
「待て。その前に一応見ておこう。近くだったらそっちに行く」
マルクスは発進させるのを止める。リカードはすでに次のカードを出して見ていた。
「で、今度はどこだ? ライチ通りか? それともケイズ通り? あそこまで行くとなると今日は帰れないけどな」
ペラペラと話す彼にリカードは何の反応も示さなかった。
「どうした? リカード」
「どこにも行かなくていい。次は俺だよ、相棒」
リカードがマルクスに見せたカードには間違いなくリカードの顔写真があった。
「う、嘘だろ相棒……」
動揺するマルクスとは反対にリカードは穏やかな表情だった。
「仕方ないさマルクス」
言ってリカードは手のひらを出した。
「……先延ばしにしてもいいんじゃないか? せめて、また酒を飲みたいんだが」
「それはダメだ。あの子の親にも同じ事を言われたからな」
マルクスは肩を落とす。
「心配するな。あの子と違って、お前に見送られるんだからな」
リカードの穏やかな顔を見て、マルクスはカプセルを渡す。
「……またな、相棒」
「ああ」
リカードは短く言うと手のカプセルを飲み込んだ。そして穏やかな顔のまま、眠るように息を引き取った。
「死体とドライブか……救われない仕事だ」
マルクスは独り呟いて、車を役所へと走らせた。