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お国の最重要任務

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「今日も仕事頑張ろうか。相棒」
リカードはそう言って、車のドアを開けた。
「おうよリカード。おっと、あれを忘れるなよ」
先に車に乗っていたマルクスは、リカードの「しまった……」と言うような顔を見て小さく溜め息を吐く。
「悪い、今から引いてくるよ。すぐ戻るから待っていてくれ」
リカードはタバコを吸い始めるマルクスを車に残し役所に戻った。
「あらリカード。いったいどうしたの?」
受付の眼鏡を掛けた女性が訊く。
「カードを引くのを忘れてしまって……」
申し訳なさげにリカードは言う。
「あらあら、しっかりしてもらわないと。この国での重要な事を任されているのだから」
女性はいぶかしげに言った。リカードが軽く頭を下げる。
「はい、今後気を付けます。機械はいつもの場所ですね?」
リカードの言葉に女性は「そうよ」と軽く答える。
リカードはすぐに機械のある部屋に向かった。
部屋のドアを開けると、小じんまりとした部屋の中心にドラム缶のような、丸くて縦に長い機械がある。
リカードはその機械に近づいて、レバーを手前に引いた。
ガタガタと機械が震え出し、カードを横に細長い口が出す。それを取ると、すぐにポケットに入れた。続けて二枚出て来て同じようにした。
今日は多いな、とリカードは思った。
車に戻ると、マルクスが何本目かのタバコを灰皿に捨てていた。
「ようやく戻ったか。早く終わらせるぞ、相棒」
リカードは車の助手席に乗り、ポケットから先程のカードを一枚出した。裏に住所、表に顔写真がある。
「まずはライム通りの二十番地だ」
カードの裏に書かれた住所を見てリカードは言う。
「おいおい、結構遠いな。後回しにしないか?」
マルクスは車のエンジンを掛けながら言う。
「あのなぁマルクス。俺たちは――」
「分かってるよ。国の役人は国の意思に従え、だろ?」
リカードが言い掛けたのをマルクスが手をひらひらと振って止めた。


マルクスが車を走らせて三十分。ようやくライム通りの二十番地に着く。
「この家だな」
マルクスが家の前に車を停める。
「間違いない」
リカードは言って車を降りた。
「お前が行くのか」
「ああ、車の運転任せっぱなしだしな」
「そうか……心配ないと思うけど、一応気を付けてな」
マルクスの言葉にリカードは頷いた。
リカードは家のドアを数回叩く。中から女性の声が聞こえてリカードは待つ事になった。どうやら取り込み中らしい。
その間、リカードは家の外観を見ていた。辺りに他の家はないく、木々に囲まれていい家だとリカードは思う。
隠居する時はこんな所がいい。
そんな事を思っていると、ドアが開いた。
「こんにちは。どちら様でしょうか?」
出てきた女性は若く、綺麗な顔立ちだ。普段見慣れない、スーツ姿の男を珍し気に見る。
「国の役所の者です」
リカードが言うと女性の顔が引きつった。役人が一般の家に来るとろくな事がない、とでも言いたそうだ。
「お国の人が一体何の用件で?」
その言葉からとげとげしさをリカードは感じた。
「奥さん、落ち着いて聞いてください」
言ったリカードはあまり落ち着いていなかった。しかし、女性の不安を煽らない為にも、せめて自分だけでも落ち着いていなければならい。
リカードはポケットからカードを出す。カードの表を見るまでもなく女性の目が丸くなる。
「まさか……」
小さな声で呟く女性。
女性に表にしたカードを見せる。そこには幼い女の子の写真があった。
「あなたの娘さんから一級犯罪者に成りうる要因を見つけました。国の方針に従い、殺害処分とさせて頂きます」
女性の顔から血の気が引く。
「ちょ、ちょっと待って。犯罪者に成る要因が見つかっても施設で更正するんじゃないですか?」
女性の目に涙が浮かぶ。
「一級犯罪者に関しては更正の見込みが少なく、更正したとしても結局は犯罪を犯してしまいます」
浮かんだ涙がついに流れ、ドアの柱に寄り掛かる女性。
機械が子供を選ぶのは稀な事だった。リカードは過去に一度子供を殺したが、その時も母親はこんな感じに泣き崩れていた。
「何とか……先に延ばす事はできませんか? せめて、夫が帰って来てから」
力なく言う女性にリカードがはっきりと首を振る。
「心中察しますが、カードが出てきた順番通りにと命じられていますので」
女性の目から涙がぽたぽたと垂れる。
「娘さんはどちらに?」
リカードが言うと女性は彼を睨み付けて言った。
「外にいるわ。いつ帰って来るかしら」
リカードはその言葉が嘘だと気づいていた。この周りでは遊べる場所などないし、散歩にしても一人で行かせる訳がないからだ。
「奥さん、分かって――」
女性がリカードの言葉をぴしゃりと止める。
「分かってるわ。かくまったりしたら、私も相応の罰を受ける事くらい……親っていうのはそういうものよ」
リカードはそれを聞いて肩を落とす。
「呼んで来るから、少し待って」
リカードは頷いた。
しばらく待って、五歳くらいの女の子を抱き抱えて女性が現れる。女性の顔は赤くなっていて、拭い切れない涙が目を充血させていた。
「こんにちは」
女の子が笑顔で言う。リカードも笑顔で返した。
「ママ、お客さんの前で泣いたらダメだよ」
「そうね……ごめんね」
女性の声が震えていた。
「……奥さんそろそろ」
リカードは水を指すと知りながら言う。
「ええ、分かってるわ」
鼻をすすりながら女性は頷く。
「ママ、どこかに行くの?」
「そうよ……でも大丈夫、またすぐに会えるわ」
女性の今できる精一杯の笑顔だった。
「さあ、行こうかお嬢さん」
リカードは女の子を安心させるように言い、その子の手を取った。
車に向か僅かな道を女の子は何度も振り返り、口に手を当てる女性に手を振っていた。
「後ろに乗ってね」
リカードは言うと女の子を車の後部座席に乗せて、自分は助手席に乗った。
「随分と遅かったな」
乗ってマルクスがぼやく。
「ああ、ちょっと手間取った」
言いながらリカードはコップを出し、ペットボトルの水を注ぐ。次に手のひらを受け皿のように、マルクスに差し出した。マルクスはそこに小さなカプセルを置く。
受け取ったリカードはそのカプセルをコップに入れた。するとカプセルは水に分解されて、跡形もなく溶け込む。
「お嬢さん。喉が渇かないかい?」
後部座席に乗った女の子に訊いた。
「ちょっと渇いたわ」
リカードは数回頷いてコップを女の子に渡した。
「ありがとう」と小さく呟いて女の子はコップを受け取った。
リカードは前に向き直る。マルクスに発進の合図を出して発進させた。
しばらく道を走り、車のバックミラー越しに女の子が水を飲んだのをマルクスが見て、道の脇に車を停車させる。
「眠ったよ」
作品名:お国の最重要任務 作家名:うみしお