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微風

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何日か経って、直美と一緒にレストランで食事をしたあと、
「伊東さん、実は…」と言って間をおき「私ね、会社を辞めるの」と言った。
「えっ、どうして」と私が聞くと、
「ずうっと迷っていた人がいてね。私、あまり男の人のこと知らなかったし、でも伊東さんを見ているうちに結婚もいいかなあ、やっぱり結婚しようと決断したの」とやや伏せ目で言った。

私は咄嗟に言葉が出てこなかった。俺を見ていて? もしかしたら浮気心の実験? それでもどうにか「ああ、そうだったの、そんな人いたなんて知らなかったよ」と言った。それが少し落胆したように言ってしまったのに気づき、明るく「そう、おめでとう」と言った。

直美が顔をあげて私を見ながら「ありがとうございます。」と言った。それから「短い間だったけど、楽しかったあ」と言った。私はその顔に嘘ではないと感じたが、それでもどこか釈然としない気持ちが残った。

数日後、社長が新入社員を紹介した。そのあと、「熊谷直美さんは、結婚が決まり退社することになりました」と告げた。すぐに拍手があって、直美はかすかな笑顔を浮かべてからお辞儀をした。私は身体の中から暖かい風がすーっと抜けていくような気がして、少し寒さを感じてしまった。

(了)
作品名:微風 作家名:伊達梁川