日々
「ニンジンと間違えて」
鋭い痛みが走る
きつく押さえた指の間から
血が流れていく
ポタポタと落ちて
流しに広がる
息をのんで立ちすくむ
いったいどれほど切ったのか
怖くて見れない
ニンジンを見つめたまま
動けない
イタイ、イタイ、イタイ
指先で痛みが鼓動する
イタイ、イタイ、イタイ
まるで別の生き物の様に
この指は何をしてきたのか
字を書くでもなく
箸を持ちもせず
力仕事は右手にまかせて
たまに荷物を持てば
ああ疲れた、と大騒ぎ
ほとんど飾りではなかったか
時には白魚のフリして
マニキュア輝かせて髪かき上げて
それからの左手ひとさし指は
日頃のうっぷんを晴らすかの様に
わがまま放題
「それ見た事か」
「思い知ったか}
と悪態をつく
化膿するぞとジワジワ脅し
敗血症の地獄に引きずり込むぞと
牙をチラつかせる
大切に、大切にかばいながら
一ヶ月を過ごした
すっかり治った今も
「覚えておけ!」
と傷跡を残す
何かの拍子に
時々ピクリと痛む