ラーメンのできる間に
夜の林道にひっそりとたたずむ一軒のコンビニ。
そこに明かりに吸い寄せられる虫の様に一台の自転車が滑り込んできた。
その自転車には一人の少年が乗っていた。
荷台には大きなバッグが括りつけられている。
少年は自転車をコンビニ指定の駐車スペースに停めるとヘルメットをぬぎ自転車に鍵をかけコンビニに入店する。
ピーンポーンというありきたりなチャイム音が鳴る。
だが、いらっしゃいませ、という店員の挨拶はない。
それどころかレジの前には誰一人いなかった。
今は深夜。
普通だったらそれなりに客も入るはずで、店員も眠気を我慢しつつもその責務を果たすためにレジ前に立っているはずだ。
しかし、いかんせんこの店は立地条件が悪すぎる。
どうせ客など来るはずないと思い奥で雑誌でもよんでいるのだろう。
だが、少年はそんなことに気づきもせずに店内を歩き回る。
少年はどうやら腹が減っているようで食品コーナーを物色し始める。
パン・おにぎり・弁当・スパゲッティ・・・と色々みていくが中々買うものが決まらない。
少年は財布の中身を見てため息をつく。
どうやら懐具合があまりよろしくないようで安くそれでいて腹が満たされるものを探しているらしい。
少年は食品コーナーを離れお菓子が置いてある棚へと向かう。
だが、やはり目当ての物は見つからない。
段々と少年の足取りが怪しくなってくる。
お腹はさっきからなりっぱなし。
見た感じ今にも倒れそうだ。
だが、腹を満たしたいと言う欲望から何とかゾンビのようにフラフラと棚と棚の間をうろついている。
これでは不審者と思われてもおかしくはない。
だが、店員はいないし、客もいないのだからその行動は誰にも咎められないだろう。
そんなこと少年は微塵も気にしてはいなかったが・・・。
いや、気にする余裕すらなかったのかもしれない。
そんな少年を救うかのようにある物が視界に入ってきた。
それはカップラーメン。
早くて安くて旨く、その上腹も満たされると言う今の少年にとって救世主の様な存在。
少年は早速ラーメンの棚に向かう。
何処にそんな力が残っていたのかと言うぐらいのスピードで駆け寄る。
そして数あるラーメンの中から自分の好みに合い腹を満たしてくれそうな物を選別するために腕を組み棚の前に陣取る。
少年は選びに選び抜いた物を棚から抜き取りレジへ向かう。
ちなみにパッケージを見ると少年はどうやら味より量を重視したようだ。
まあ、それも今までの少年の行動を見れば当然のことといえよう。
レジ前に来た少年がようやく店員がいないことに気づき何度か「すいません!」と大声で叫ぶとようやく店の奥からだるそうに少女がやってきた。
「ごめんね、ちょっと居眠りしちゃってて・・・」
客に対してその言葉遣いと勤務中に居眠りはどうかと思ったが少年は黙ってカップラーメンを差し出した。
少女は今起きたばかりで夢うつつなのかだるそうな手つきでのんびりとレジを打つ。
それはまるで今にも腹が減って倒れそうな少年をじらしているかのように思えた。
「えーっと、二百円になりまーす・・・箸はいる?」
「・・・お願いします」
少年はそういいながら渋々お金を出す。
これではどっちが客かわからないではないか。
「レシートはいらないよね」と勝手にレシートをゴミ箱に捨てる少女。
一体何処まで適当なのだろうか、と少年はあきれてしまう。
しかし、そんなことにかまってはいられない。
さっきから腹がなりっぱなしなのだ。
さっさとこのラーメンを開けお湯を注ぎたい。
そうすれば三分後には夢の世界が待っているのだ。
しかし、そんな少年の思いを無視するかのごとく少女は「はしはしーはしはどこー?」とのんびり歌いながら箸のありかを探して店の奥へと引っ込んでしまう。
しばらくしてようやく少女が戻ってきたとき少年は倒れる寸前だった。
「はい、これ使って!」
と少女が渡してきた箸はコンビニのものではなく恐らくこの少女が出前を頼んできたときにについてきたあろうひなびた箸だった。
ちなみに、袋には「鐘楼軒」という渋い文字がプリントされており全体的に色がくすんでいる。
少年はそれを受取りポットのありかを探す。
しかし、そんなものは何処にも見つからない。
普通のコンビニならレジのそばに置いてあるものなのに・・・。
ここはどうかしてしまっているのだろうか?
「あの、ポットってあります?」
と、少年が聞くと少女は「ああ、それなら奥においてあるよーちょっと待っててね」と再び店の奥へと引っ込んだ。
「・・・頼むから早くして、もう死にそうなんだ」
そう呟く少年はその言葉が嘘とはおもえないくらいに盛大にふらついていた。
少年の命が尽きそうになろうとしたその瞬間、少女はポットを持って現れた。
大げさだが彼女が天使のように思えた。そのときだけは。
「どうしたの?大丈夫・・・凄い顔色悪いよ?」
と、ポットを手にした少女が問いかけてきたが少年には答える元気もなくただ「腹が・・・」としかいえなかった。
「ああ、お腹減ってたんだ」とのんきに答える少女。
普通ここまでのやりとりを思えばそのくらいわかるだろうと思ったが、少年は黙りこむしかなかった。
そんな少年に少女は唐突に「そっかそっか、じゃあさ、奥に上がりなよ。お菓子とかあるからラーメンできるまで一緒に食べよ」とわけのわからないことをいってきた。
・・・猛烈に腹が減ってる少年としては願ってもない提案だったが果たして彼女は大丈夫なのだろうか?と少し警戒してしまう。
「さ、こっちはいって」とレジの中へ少年を招き入れる少女。
彼女はいつの間にか少年のカップラーメンとポットをその手に持っていた。
これではさからえない、と諦めレジの中へ入り少女の後をついていく。
なんと奥の部屋は畳敷きで何故だかコタツが置いてあった。
普通のコンビニの休憩室にはこんな設備はない。
一体ここはどうなっているのだろうか?と少年は不思議に思った。
「さ、どーぞ」といいながら靴をポイポイと脱ぎ捨て畳に上がりコタツに入る少女。
見ると部屋にはコタツの他に旧型のテレビと石油ストーブまで置いてある。
まるで、茶の間のようだ。
テレビはつけっぱなしになっており、お笑い番組が流れている。
そのテレビの上には年代物の時計が置かれておりカチコチと音を立てて時を刻んでいた。
まるで時が止まったようなその部屋を少年が眺めていると少女が「早くあがんなよ」と急かしてきた。
慌てて少年が靴を脱ぎ畳の上に上がると少女はすでにコタツの中に入っており隣のコタツ布団をめくり「座って座って」といった。
少年は遠慮がちに少女の隣に座りコタツに足を入れる。
すると少女は勝手にカップラーメンの蓋を開けポットから湯を注いだ。
少女は「はいどーぞ!」というとカップラーメンを少年の前に置いた。
ためらいがちに「あ、ありがとう」と礼を言う少年。
少女はラーメンの蓋に印刷された表記を見てから少年にむかって「えーっと、出来上がるまで三分ね・・・じゃ、その間お話でもしよっか」といった。
初対面の相手の部屋にいきなり連れてこられたのだ。
そこに明かりに吸い寄せられる虫の様に一台の自転車が滑り込んできた。
その自転車には一人の少年が乗っていた。
荷台には大きなバッグが括りつけられている。
少年は自転車をコンビニ指定の駐車スペースに停めるとヘルメットをぬぎ自転車に鍵をかけコンビニに入店する。
ピーンポーンというありきたりなチャイム音が鳴る。
だが、いらっしゃいませ、という店員の挨拶はない。
それどころかレジの前には誰一人いなかった。
今は深夜。
普通だったらそれなりに客も入るはずで、店員も眠気を我慢しつつもその責務を果たすためにレジ前に立っているはずだ。
しかし、いかんせんこの店は立地条件が悪すぎる。
どうせ客など来るはずないと思い奥で雑誌でもよんでいるのだろう。
だが、少年はそんなことに気づきもせずに店内を歩き回る。
少年はどうやら腹が減っているようで食品コーナーを物色し始める。
パン・おにぎり・弁当・スパゲッティ・・・と色々みていくが中々買うものが決まらない。
少年は財布の中身を見てため息をつく。
どうやら懐具合があまりよろしくないようで安くそれでいて腹が満たされるものを探しているらしい。
少年は食品コーナーを離れお菓子が置いてある棚へと向かう。
だが、やはり目当ての物は見つからない。
段々と少年の足取りが怪しくなってくる。
お腹はさっきからなりっぱなし。
見た感じ今にも倒れそうだ。
だが、腹を満たしたいと言う欲望から何とかゾンビのようにフラフラと棚と棚の間をうろついている。
これでは不審者と思われてもおかしくはない。
だが、店員はいないし、客もいないのだからその行動は誰にも咎められないだろう。
そんなこと少年は微塵も気にしてはいなかったが・・・。
いや、気にする余裕すらなかったのかもしれない。
そんな少年を救うかのようにある物が視界に入ってきた。
それはカップラーメン。
早くて安くて旨く、その上腹も満たされると言う今の少年にとって救世主の様な存在。
少年は早速ラーメンの棚に向かう。
何処にそんな力が残っていたのかと言うぐらいのスピードで駆け寄る。
そして数あるラーメンの中から自分の好みに合い腹を満たしてくれそうな物を選別するために腕を組み棚の前に陣取る。
少年は選びに選び抜いた物を棚から抜き取りレジへ向かう。
ちなみにパッケージを見ると少年はどうやら味より量を重視したようだ。
まあ、それも今までの少年の行動を見れば当然のことといえよう。
レジ前に来た少年がようやく店員がいないことに気づき何度か「すいません!」と大声で叫ぶとようやく店の奥からだるそうに少女がやってきた。
「ごめんね、ちょっと居眠りしちゃってて・・・」
客に対してその言葉遣いと勤務中に居眠りはどうかと思ったが少年は黙ってカップラーメンを差し出した。
少女は今起きたばかりで夢うつつなのかだるそうな手つきでのんびりとレジを打つ。
それはまるで今にも腹が減って倒れそうな少年をじらしているかのように思えた。
「えーっと、二百円になりまーす・・・箸はいる?」
「・・・お願いします」
少年はそういいながら渋々お金を出す。
これではどっちが客かわからないではないか。
「レシートはいらないよね」と勝手にレシートをゴミ箱に捨てる少女。
一体何処まで適当なのだろうか、と少年はあきれてしまう。
しかし、そんなことにかまってはいられない。
さっきから腹がなりっぱなしなのだ。
さっさとこのラーメンを開けお湯を注ぎたい。
そうすれば三分後には夢の世界が待っているのだ。
しかし、そんな少年の思いを無視するかのごとく少女は「はしはしーはしはどこー?」とのんびり歌いながら箸のありかを探して店の奥へと引っ込んでしまう。
しばらくしてようやく少女が戻ってきたとき少年は倒れる寸前だった。
「はい、これ使って!」
と少女が渡してきた箸はコンビニのものではなく恐らくこの少女が出前を頼んできたときにについてきたあろうひなびた箸だった。
ちなみに、袋には「鐘楼軒」という渋い文字がプリントされており全体的に色がくすんでいる。
少年はそれを受取りポットのありかを探す。
しかし、そんなものは何処にも見つからない。
普通のコンビニならレジのそばに置いてあるものなのに・・・。
ここはどうかしてしまっているのだろうか?
「あの、ポットってあります?」
と、少年が聞くと少女は「ああ、それなら奥においてあるよーちょっと待っててね」と再び店の奥へと引っ込んだ。
「・・・頼むから早くして、もう死にそうなんだ」
そう呟く少年はその言葉が嘘とはおもえないくらいに盛大にふらついていた。
少年の命が尽きそうになろうとしたその瞬間、少女はポットを持って現れた。
大げさだが彼女が天使のように思えた。そのときだけは。
「どうしたの?大丈夫・・・凄い顔色悪いよ?」
と、ポットを手にした少女が問いかけてきたが少年には答える元気もなくただ「腹が・・・」としかいえなかった。
「ああ、お腹減ってたんだ」とのんきに答える少女。
普通ここまでのやりとりを思えばそのくらいわかるだろうと思ったが、少年は黙りこむしかなかった。
そんな少年に少女は唐突に「そっかそっか、じゃあさ、奥に上がりなよ。お菓子とかあるからラーメンできるまで一緒に食べよ」とわけのわからないことをいってきた。
・・・猛烈に腹が減ってる少年としては願ってもない提案だったが果たして彼女は大丈夫なのだろうか?と少し警戒してしまう。
「さ、こっちはいって」とレジの中へ少年を招き入れる少女。
彼女はいつの間にか少年のカップラーメンとポットをその手に持っていた。
これではさからえない、と諦めレジの中へ入り少女の後をついていく。
なんと奥の部屋は畳敷きで何故だかコタツが置いてあった。
普通のコンビニの休憩室にはこんな設備はない。
一体ここはどうなっているのだろうか?と少年は不思議に思った。
「さ、どーぞ」といいながら靴をポイポイと脱ぎ捨て畳に上がりコタツに入る少女。
見ると部屋にはコタツの他に旧型のテレビと石油ストーブまで置いてある。
まるで、茶の間のようだ。
テレビはつけっぱなしになっており、お笑い番組が流れている。
そのテレビの上には年代物の時計が置かれておりカチコチと音を立てて時を刻んでいた。
まるで時が止まったようなその部屋を少年が眺めていると少女が「早くあがんなよ」と急かしてきた。
慌てて少年が靴を脱ぎ畳の上に上がると少女はすでにコタツの中に入っており隣のコタツ布団をめくり「座って座って」といった。
少年は遠慮がちに少女の隣に座りコタツに足を入れる。
すると少女は勝手にカップラーメンの蓋を開けポットから湯を注いだ。
少女は「はいどーぞ!」というとカップラーメンを少年の前に置いた。
ためらいがちに「あ、ありがとう」と礼を言う少年。
少女はラーメンの蓋に印刷された表記を見てから少年にむかって「えーっと、出来上がるまで三分ね・・・じゃ、その間お話でもしよっか」といった。
初対面の相手の部屋にいきなり連れてこられたのだ。
作品名:ラーメンのできる間に 作家名:ミタライハルカ