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ミタライハルカ
ミタライハルカ
novelistID. 31780
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そして冒険は続く

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森の中を歩いていた。
何の変哲も無い道だった。
それで気が緩んだのだろうか。

突然地面が裂け二人は深い穴に落ちていった。

そして暗闇に目が慣れた頃。

二人は穴全体を覆い尽くすように編まれた糸に絡まっていた。
身動きが取れないせいか口だけは良く動く。

「移動系の魔法とか使えねぇのかよ!お前は」

「使えたらこんなことになって無いでしょ!知ってるくせに・・・」

「だーかーらーまじめに授業受けてろっつったんだよ!その大事な大事な移動系の魔法の授業を先生様がありがたーく教えてくださってた時間にいびきかいてたのは一体どこのどいつだ?」

「うっさいな!あんたこそ剣落っことさなきゃこの糸くらい簡単に切れるくせに!」

「う゛~~~~~~~~!!!!!!!!!!!!!!!!」

二人は互いをにらみつけ同時にうなり声を発する。

そして

「ルークのバカ!アホ!トンカチ!!!」

「うるせー!ティアのグズ!ノロマ!ドジ!!!」

その後も不毛なやり取りは続く。
だが、そうのんきにもしていられない。

そう、ここは巨大な蜘蛛の巣なのだ。
上を見ても下を見ても縦横無尽に糸がはしっている。
この穴には蜘蛛の巣が上下に幾重にも重なっている。
二人の落下の衝撃でいくつもの巣を破りやっと辿り着いたのがここなのだ。

その証拠に上を見ると二人が落ちてきた形に穴がずーっと続いており巣の主達が早速修復作業をしている。

幸いな事に二人が引っかかった巣の主は留守なので今のところ命の心配は要らないのだがいつ主が帰ってくるかわからない。

本当は馬鹿なけんかをしている暇など無いのだ。
一刻も早くここ脱出する策を練るべきなのだが・・・人間そう簡単にはいかない物なのだ。

前述したような言い合いを重ねに重ねようやく落着いた頃、二人はやっと周囲を観察するくらいの余裕を持つことが出来た。

「しっかし・・・上も下も蜘蛛の巣だらけかよ・・・正直どうしたらいいかわからねぇ」

「そうだね・・・ここは蜘蛛いないみたいだけど」

ようやくそのことに気づく二人。
さっきまでは言い合いで熱くなり上気してた顔が心なし青ざめたようだ。
しかし、その恐怖を隠したいのか口だけは良く動く。

「つーかさ、よく見るとこの蜘蛛の巣っておかしくねーか?」

「ん?どこが???」

「いやさ、普通だったら蜘蛛の巣ってくいもんとるためにはるじゃん?」

「うん」

「けどさ、ここって変なもんばっかひっかかってる・・・例えばあれ見ろよ」

「・・・タンスだね」

そう、この蜘蛛の巣はおかしい。
普通ならば巣には食用の虫が引っかかるはずで間違ってもタンスなどは引っかからない。
見れば他にもいろいろな物が引っかかっている。

「なんでかしんねーけど食いもんがひとつもねぇ・・・これってさ」

「・・・うん、帰ってきたら私達真っ先に食われるね」

途端にパニックになる二人。
冷静に状況を把握すれば少しは落着く事も出来たのだろうが・・・。

「やべぇ!!!はやくにげねぇと!!!!!どうするどうするどうする?????」

「っていわれても、わかんないよ!!!あたしもパニクってんだからさ!!!!!」

蜘蛛の巣に引っかかりながら手足をばたつかせるという危険極まりない暴挙に出る二人。
まあ、気持ちはわからなくも無いが・・・。

そして、その行為をしばらく続けた後それが命の危険に繋がると言う事にようやく気づいたのか・・・

「と、とと、とりあえずさ・・・深呼吸深呼吸」

「そ、そだな、いつほかの巣から蜘蛛がくるかわかんねぇし・・・すぅ~はぁ~」

同時に深呼吸し始める二人。
そんな所だけは息がピッタリだった。

「ちょい落ち着いた・・・さんきゅ」

「でもさ、ホントどうしよう」

「そだな・・・まず、この糸から脱出しねー事にははじまらねぇ」

「うん、そうだね」

「そーだなーまず服脱ぐか!非常時だししょうがないんじゃね?」
「お、お前には恥じらいというもんがないのか!!!」

ティアのその大声を聞き上の巣にいる蜘蛛がこちらを見た。

「シー!」
「シー!」

お互い口をつぐむ。

「っていうか、こっちは女の子なんだからね・・・ちょっとは気を使いなさいよ!」

「いや、でもさー・・・実際しょうがないじゃん?」

「うん、まあ・・・そうだけどさ」

「わかった!ティアああっち向いてるからその間に脱げ」

「・・・」

「何だよ!その無言は!!!ほんとだって信じろよ」

「・・・わかった」

服を脱ぎ始めるティア。
時折ルークのほうをチェックする。

「・・・見てねーって!」

それを悟ったかのように顔を背けつつ反論するルーク。

さすがにティアは女の子というだけあって服を脱ぐのに時間がかかった。
大体ルークの倍くらいは。

蜘蛛の糸から逃れるために服をほとんど脱いでしまい裸同然の二人。

しかしもう恥ずかしがってなどいられない。
早速脱ぎ捨てた服の上に立ち相談する。

「とりあえず二人が自由に動けるだけの場所をつくんねーと駄目だ」

「そだね・・・う~ん、テントを広げたらどうかな?」

「ん~・・・まあ、正直惜しいけどこの際しかたねぇな」

二人は服の上でバランスをとりながらテントを広げる。
そしてその上に座りながら辺りを見回す。

「しかし、いろいろあるよなー・・・」

「そうだな、ちゃぶ台に座布団にタンスに冷蔵庫・・・まるで人間の家みたい」

そう、まさにティアがいったようにバラバラに見ていくと確かに変だが全体を見るとまるで人間の部屋のようだった。床が糸でできている事を除けばの話だが。

その事に気づきルークは何かを思い出す。

「あぁ・・・何だか思い出してきたこいつらたしか・・・」

この蜘は基本的に獲物は外で捕食する種類であり巣には外で見て気に入った物を巣に持ち込みコレクションすると言う一風変わった蜘蛛で名前をカグモという。

そしてそのコレクションのセンスで雄が雌に求婚をするそうだ。

ちなみにその求婚が成功すると互いが同居し始め妻が巣で夫の帰りを待ち持ち帰った得物を料理までするという。

まるで、人間の夫婦のようである。

ルークがティアにこの蜘蛛の説明を済ませるとティアが「何で今まで忘れてたのよ」と詰め寄る。

「いやあまりに馬鹿馬鹿しい性質なんで存在自体忘れてた・・・いや忘れたかったつーか」

ルークは複雑そうな顔をしながらそういった。

「・・・まあ、そのきもちもわからないではないけど」

見るとティアも似たような顔をしていた。
どうやら同感のようだ。

「・・・じゃあ、その話からするとこの巣の主は独身だね、奥さんいないし」

「・・・うん、まあそのおかげで助かったようなもんだけどな」

「で、どうする?」

ヘンテコな巨大蜘蛛の生態が分かった所で気持ちの切り替えが出来たのか話を戻すティア。

「う~ん・・・とりあえずこれを使おうと思うんだ」

それに対しルークが指差したそれは巨大な業務用冷蔵庫だった。
どうにもこの巣に不釣合いな代物。

確実にこの「部屋」の雰囲気をぶち壊している。

「無骨で馬鹿でかく頑丈」な箱・・・非常に機能性に富んではいるのだが。