灰色蝶にウロボロス
「ん、そりゃあゴーレムがぶっ壊された時、一宮が色々思い出したなーってのが俺にも何となくわかったから。じゃあ町が人払いされてるのも、俺がやったって気付いて会いに来るだろうなーと」
「嫌だ、何で限野に私のことがわかるかな。気色悪い」
心底の言葉に限野が口を尖らせる。
「気色悪いはないだろ。ひっでーな。俺の繊細なハートは見るも無残にズタズタだ」
「繊細って意味を間違えて覚えたの?」
「……何で一宮はそんなに毒々しい言葉ばかり口から出てくるんだろうなぁ。仕方ないか、俺があまりに善良極まりないし」
「じゃあ自称善良の限野はさっさと人払いしたこの町をなんとかしてくれない? 泥まみれの姿をご近所や家族にも見られずにすんだのはよかったけど、これじゃあゴーストタウンじゃない」
「せっかく苦労してこんな大規模に人払いしたのに」
あからさまに不満げだけれどそんなことは知ったことじゃない。
「さっき苦労なんてしたことないって言ったのはどの口?」
「たった今、ああやっぱりあれは苦労だったなと認知したんだよ」
そう言ってわざとらしく肩を竦めてみせたけど、飽きたのかそっぽを向いて「でも腹減ってきたなぁ」などとほざきだした。
「それじゃあ一宮もうるさいし、そろそろ帰るか」
「その自己中心的な性格はもう犯罪だよね。客観的に見れば見るほど思う」
「客観的に見ると一宮の毒舌は凶器だよな」
「黙れ。自己中で人様のペースを乱すよりはマシだから」
「その毒舌でこれからどれだけの人間のハートを抉ってくんだろうな?」
言い返したかったと言えば言い返したかったけど、これ以上は不毛な争いでしかないのでお互いそれ以上は言わなかった。こうなったら諦めてなかったことにして水に流すのが懸命だ。
「あーそうだ」
先に沈黙を破ったのは限野だった。
「帰るより先に聞かせろよ。それで一宮、自力で思い出してどう思った?」
まったく笑っていな目に形だけの笑顔で限野はじっと私の顔を覗きこんできた。
触れるほどではないけれど、間近にある限野の顔を見て奇妙な感覚を覚えながら私は答えた。
「そう言えばそういうことにしたんだった。それが最初の感想」
「最初ってことは次もあんの?」
「あるね」
「ふぅん。じゃあ次の感想ってのは?」
にやにやと笑みを浮かべる限野に、こちらも笑って答えてやった。
「私とあんたが元は同じ人間だったなんて、気色悪くて死にそう」
限野はおかしそうに声を上げて笑った。
「全く同感だ」