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しっぽ物語 7.美女と野獣

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「経過は良好ですよ」
 Wの溌剌とした笑顔に、Vは温厚な笑みを向けた。どうしてこの医者は、こんなにも眩しく笑うことが出来るのだろう。
「傷口はしっかり塞がっています。どうです、痛みは」
「おかげさまで」
 いつものように持ち上げ顔の前で振ろうとした左腕は、虚しく宙を切る。肘関節のところで盛り上がった脂肪と筋肉が、引き攣るような痛みを与えて思わず顔を顰める。ボールペンを指先で回しながら、Wは苦笑を漏らした。
「とは言っても、まだ乱暴に扱っちゃいけませんよ」
「つい、いつもの癖で」
「分かります」
 言葉の軽さを口ぶりの深みで補い、頷いてみせる。
「先日カウンセラーからカルテが届いたんですが、BIID、つまり身体完全同一性障害の疑いはないと」
「何です、それ」
「まあ、つまりは特殊な好みの一つですね」
 カルテに視線を落としながら、Wは一瞬、こってりとした東部訛りの混じる口調を滞らせた。分厚い資料でも隠せない、微笑を浮かべた唇を眼にした途端、気持ちには暗澹が流れ込んできたが、Vはあえて無視した。
「自らの身体に手足が二本ずつ付いていることが許せず、取り除きたいと思うことです」
「まさか」
 今度は憤慨を素直に表現し、Vは首をふった。Wは取り繕うようにまた顔をくしゃくしゃにして、医者らしく長い指先で厚紙を叩いた。
「あなたは違った、という結果が出たんですよ。薬物による酩酊の結果、魔が差したというだけの話です」
「凄い匂いがしたことだけは覚えてるんですけどね」
 半分の長さになってしまった腕を摩り、Vは鋭敏な笑い声をあげた。
「なにせ自分の腕が、ポテトと一緒にカリカリに揚がってたんですから。痛くはなかったんですが」
「でしょうな。血液中のモルヒネ含有量は尋常じゃなかった。あれじゃあ痛みなんか感じてる余裕もない」