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漢字一文字の旅  第一巻(第1編より第18編)

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十三の六  【鼓】


【鼓】、左部はまさに「つづみ」の形。右部は「打つ」の意味。
鼓を打って元気づけることを「鼓舞」。
世の中が治まり、充分食べられる。腹を打って満足に暮らすことを「鼓腹」(こふく)という。
こんな生活臭のある【鼓】。これが天に昇ると、ロマンチックにも…『鼓星(つづみぼし)』となる。

木枯らし途絶えて 冴ゆる空より
地上に降りしく 奇(く)すしき光よ
もの皆憩(いこ)える しじまの中に
きらめき揺れつつ 星座はめぐる

冬の星座、それはなんと言ってもオリオン座。
このオリオン座の和名こそが…『鼓星』なのだ。

オリオン座は海の神ポセイドンの子であり、美男子の巨人。しかし、乱暴者の漁師だった。
すばるの姉妹を追い回したり、動物を虐めたり。そして、冬の間、高い所に上がって威張ってる。
これを見かねた大地母神ガイア、さそり(さそり座)を使って、毒針で刺し殺してしまう。
これ以降、オリオン座はさそり座が怖い。
だからなのだ。夏の星座さそり座が東の空に上がる頃になると、オリオン座はそそくさと西の空へと逃げて行ってしまう。

そんなオリオン座、真っ赤に輝くベテルギウス「源氏星」、青く輝くリゲル「平家星」など、澄み切った冬の夜空に豪華に輝く。
それは【鼓】を打ち鳴らしたように、いよーてんてけてんと煌めく。

きっとそう感じたのだろう。
この日本の、いや、まほろばの古人(いにしえびと)たちは…『鼓星』(つづみぼし)と呼んだのだ。