漢字一文字の旅 第一巻(第1編より第18編)
十五の五 【様】
【様】、右は「羊」と「永」の合体。そして、それは水の流れ、その水脈が長く連なるさまのことだとか。
ならば、なぜ「?」でなく「木」偏なのか?
【様】はブナ科の落葉樹「栩(くぬぎ)」の意味があったからとか……。だが、正直よくわからない。
そんな【様】、意味は「有り様」。要は「寝様」に「死に様」など、いろいろな【様】がある。
そんな中で最も気に掛かるのが「生き様」。それは人間の「生き様」だけではない。犬や猫の動物にも「生き様」はある。また、草花や樹木にも「生き様」はある。
そして身の回りをよく観察すれば、大変お世話になってるパソコンたちにも「生き様」はあるのだ。
だが、残念なことだ。その生き様は悲劇的で、嘆きの独白が聞こえてくる。
『パソコンたちの、バカにすなと叫びたい生き様』
(一) マウス
いっつもガリガリと動かされ、好き勝手にクリックされて暮らしてます。
とにかく御主人さまの意のままに、一所懸命働いているのですが、時々、御主人さまのミスでポロッと床に落とされたり…でして。
この間なんて、餃子、キムチ、納豆食べた手で、ぬるっと握られました。
臭い、油っこい、ネバネバ。
もうカンニンして下さいよ。
(二) マウスパット
いっつもマウスのヤツにゴシゴシこすられて、辛い日々です。
陰ながら御主人さまを支えているのですが、気付いてくれません。
破れたらポイッ! ゴミ箱へ直行ですよ。
その上に、この間なんて、御主人さまのニャンコが私の上にドカッと座りよりまして…。
地球滅亡の日をただひたすらに待つ、そんな呪いの毎日です。
(三) キーボード
いっつもバンバン叩かれて、もう手垢(てあか)で汚いってありゃしません。
だけど、マウスパットよりちょっと益しかなと思ってたら、この間、御主人さまの赤ん坊が、しっかりよだれ垂らしよりまして…。
もうやってられません。
新品の頃のプライドも消え失せて、もう勝手にしろと居直る日々です。
(四) ディスプレー
いっつも御主人さまに、ヒステリックに睨まれて、ハラハラの毎日です。
この間も、私には全然責任ないのですが、いきなり凍結したんですよね。
御主人さまから、「お前アホか!」と罵声と唾が飛んできました。
仕事中はなんとか薄暗く輝いてはいるのですが、OFF時はスッピン。もう、ほこりだらけで、見られたものじゃないですよ。
「ちょっとくらい磨いて下さいよ」と、御主人様にお願いしても、この間なんか、鼻かんだ後のティッシュで、ゴリッとこすられましてね…。
かっての光り輝いていた栄光の日々を懐かしむ毎日です。
(五) USBメモリ
いっつも御主人さまに、あれもこれもと詰め込まれて、後は忘れ去られてしまい、出番なし。
知識は一番持ってると自負してるのですが、この間なんか、ポトリとトイレに落とされたんですよ。
役に立っていた日々、一体あれは何だったんでしょうね。
我が生涯を悔やむ日々です。
いやはや「生き様」の【様】という漢字、ことほど左様に…【様様】なのだ。
作品名:漢字一文字の旅 第一巻(第1編より第18編) 作家名:鮎風 遊