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Heart of glass

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大と小


 私立神鷹学園。都内に広い敷地を持ちながらも、金持ちから貧乏人までが通える名門校。奨学金制度もさながら、通常授業料も通常の私立の二分の一もないと言われている。
 神鷹学園内の多くある建物の一つ、その一階を猛スピードで駆けぬける二人がいた。
「お〜い、待ってんか〜!」
 ほかより顔半分は背の高い男が、人ごみをかきわけて進む。眼鏡をかけた彼の視線の先には、女子とさほど変わらない身長の少年が。彼もまた、同じような速さで人ごみをかきわけて進んでいる。
 何度も何度も大声で呼ぶ男に対して、少年はちっとも足を止めない。が、あまりにも大きな声なので、とうとう彼は向きを変え、その小さな体に似合わない大声で眼鏡の彼を怒鳴りつけた。
「うるせぇ!」
「おお、やっと止まってくれたんか」
 怒鳴られたにも関わらず、ニコニコと笑いながら眼鏡の彼は少年を見る。少年はいらだちを隠せず、眉間(みけん)に深いしわを作る。女の子のような可愛らしい面立ちの彼に、眼鏡の彼が尋ねる。
「なあ、名前教えてくれ」
「いやだ」
「そないな事言うなや。会話するとき不便やろ?」
「会話ってのは友達とだけすりゃいいもんだろ」
「ほな俺ら友達やん!」
「会話ってのは成り立って初めて会話っつーんだよ!」
「え?これって会話やなかったら何?」
 困る質問をされた彼は、話題を元のものへ戻した。
「ともかく、普通お前から名乗るもんだろ、そういうのはっ!」
 いらだちに任せ、なにも考えずに返してしまったあとに、追われていた少年の表情が変わる。今の言葉は、まるで「そちらが教えれば、こちらも教える」と言ったようなものだ。見る見るうちに白くなる彼とは逆に、その意味を理解してしまった眼鏡の彼は、嬉しそうな表情へと変化する。そしてロクに確認も問わず、彼は自己紹介を始めた。
「俺の名前は奥椙 硝(おくすぎ・しょう)っちゅーねん」
「へぇ。んじゃまたな、奥椙」
 そういって彼は眼鏡の彼、硝から逃げるように向きを変えて駆け出した。
作品名:Heart of glass 作家名:神田 諷