小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

炎舞  第一章 『ハジマリの宴』

INDEX|3ページ/18ページ|

次のページ前のページ
 

p1



                 二

 その地を覆う白い闇。はらはらと音をたてて舞う雪は、絶えることなく地面へ沈む。
 四方を白一色に囲む広大な大地には、ぽつんと不釣り合いに佇む屋敷が存在していた。歴史を感じさせるその日本家屋の屋根に、スコップを持ち、雪を下ろしている男性がいる。
 頬を切るような冷気が吹きつけて、肩にかかる男のものにしては長い、色素が薄く柔らかそうな髪がふわりと踊る。掻きあげるように横へ流して耳にかけると、スコップの動きを止め、一息つく。
 温い吐息が白く空気に溶け、心持ち顎をあげると、猫のように蠱惑的な双眸をほっそりとさせた。
 白夜を感じさせる、果てなく続く白い大地は、まるでこの屋敷を氷雪で閉じ込めたかのような錯覚を覚える。
 男は失望の溜息を零し、わずかに苦笑した。
 現実、ここは自分にとって牢獄――――。
 この白い世界の先を、自分は知らない……。
「冷ー!」
 心を現に引き戻す呼び声が、屋根の下からかかった。冷と呼ばれた男は緩慢に首を動かす。
 にゃっ、と愛嬌あふれる笑顔の青年が、その面をこちらに向けていた。
「そろそろ休憩しようよ~! 芙蓉がお茶にしようって言ってるよ。早く来ないと冷の団子はボクが全部イタダくよ~!」
 その彼の笑顔に惹きこまれて、冷は控えめな微笑みをつくり首を縦に振って返す。
「今行くよ。北斗」

 火鉢で温められた部屋に入ると、先に到着していた北斗が美味しそうに団子を頬張っていた。その横で茶をたてていた女性がこちらに気づき、優しい笑顔のまま冷のコートを丁寧に脱がす。
「お疲れ様でした、若。今温かいお茶を用意しますね」
 艶のある黒髪を結いあげ、牡丹の着物を着た清楚な女性の名は、芙蓉。
 幼少から共に育ち、尚且つ冷の身のまわりを世話する役を任されている。
 彼女がお茶をたてている間、冷は部屋の隅で琴を弾く男性の方向へ視線を動かす。そして彼の正面ではなく、膳の向かいに距離を置いて腰を下ろした。雪かきをしている間も響いていた繊細な音色。実に流麗な爪弾きだ。黙ってそれを見つめていると、不意に音色が途絶える。
 琴に対してやや前傾となっていた和服の背筋が正され、端整な容貌が静かにこちらへと向いた。
「……邪魔、だったか?」
 首を僅かに傾げて困惑の表情で伺いを立てた冷に、男は緩やかに首を横へ振る。
「いや、お前のせいではない。少し喉が渇いた」
 そう言うと琴爪を取り、膳を挟んだ対面へ腰を移して来た。
 真っ直ぐで癖のない黒の長髪を一本に束ねた長身の男は、昔から冷の護衛を務める天彦。芙蓉の兄である。
「雪かき、すまなかったな。寒かったろう」
「……。……他に、やることもないしな」
 目元に前髪がかかったためか、冷の面差しに微かな翳りが落ちたように映った。ひそやかな発声で独り言のように呟く冷の横顔を、天彦は無言で見つめる。
 黙り込んでしまった天彦の態度をどう捉えたのか、冷は眉を歪めて苦笑した。
「天彦のせいじゃない。…芙蓉も北斗も、俺によくしてくれる。それに……」
 淀みなくそう言うが、物憂げで虚ろな眼差しを障子へ、いや、障子の向こうに広がる白い世界のその先へと流されていた。
「もしも俺の内に秘められた力が、俺が思うほどに大きいものなら、あるいは―――、―――――」
 期待と絶望が一緒くたになって心音を乱している。 
 幼い頃、裸足でがむしゃらに駆けた。
 小さな足の裏が砂利を踏んで血を滲ませ、冷たい雪で赤くなっても後ろを振り返るのだけは怖くて、前だけを縋るように見て走っていた。しかし最後は両脇から肩を取り押さえられ、腕を唸りあげられて、その場に跪かされる。
 ここは牢獄。
 冷の深紅の瞳を、細やかに揺らぐ睫毛が閉ざした。