顔合わせ
「祐樹君。新婚旅行の予約もしてあるんですか?」
山中がそれを訊いたとき、祐樹は絵里香と山で口づけをしたことがあるかも知れないと、思っていた。
「祐樹!」
父が呼んだ。
「えっ?」
祐樹は眠りから覚めたような様子だった。
「新婚旅行は?」
母だった。
「新婚旅行?……ああ、現在検討中。優奈……さんはハワイへ行きたいんだったね」
「バリでもいいのよ」
優奈は夫になる男を凝視めながら云った。
「僕はヨーロッパの山々を眺めたいんだ。泳ぎが得意じゃないから海は怖いね。急に津波が来たらと思うと、ゾッとするよ」
そう云いながら、祐樹は思い出していた。山小屋の外で彼は絵里香とふたりで会った。夜の暗さの中で、抱き合って口づけをした。ふたりとも酒を飲んでいた。それが絵里香に関しての記憶の最後だった。