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なつきすい
なつきすい
novelistID. 23066
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いやがらせマイタウン

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 噂に拠ると、かつて世間を騒がせたカルト宗教の残党、とのことであるのだが、正直よくわからない。ただ、一体何をしているのだか、彼らが儀式を始めると、途端に盗聴器の電波が乱れることがよくあるので、何らかの電波を発信するような機器を使用しているのだろう。よくわからない怪しい匂いをうっかりかいでしまい、半日寝込んだこともあるのだが、一体何が行われているのか、恐ろしくて確かめる勇気は小笠原にはない。顔を覚えられて、教祖の命令で消されたりしたくもないし。
 かといって、この界隈で電波状況で一番良いのはここなので、引っ越したくはない。ここに越してきてからやむなく買った空気清浄機を最大出力にして、小笠原はヘッドホンをかぶり直した。
 
 
 集会が終わり、信者らを最寄駅まで送るためにマイクロバスを出そうとして、教祖の弟である高屋敷は困っていた。
 マイクロバスのほか、マイカーでやってくる信者のこともあり、マンションの駐車場だけではスペースが足りないので近所の月極駐車場を三台分ほど借りているのだが、隣のスペースの主の駐車マナーが、どうしようもないほど悪いのだ。
 ちょっと線をはみ出す、ぐらいなら、多少はいらいらするけれどもその程度だ。だが、他人のスペースに平気で止める、出し入れの際に他の人の車を擦る、ものすごく絶妙な位置に飛びだして置きっぱなしにするものだから、邪魔になる、など、使用に支障が出るレベルなのだ。
 今日は、駐車場の出入り口付近に大きくはみ出していて、他の車が出庫できなくなっている。更に、バックの際に擦ったのか、一人の信者の車に、先ほどまではなかったはずの傷がついていた。
 ここまでされてもどうしようもできないのは、近隣に他に駐車場がなく、そして、その迷惑駐車の人物が、この駐車場のオーナーである橋下だからだ。一度講義したことはあるのだが、改善される見通しは、今のところ立っていない。
 こういう事情で、この教団では自家用車ではなく、公共交通機関とマイクロバスの使用を推奨している。車に何かあっても、責任が取れない。
 どうせあんな奴、兄さんが天に昇って唯一神との世代交代を果たし世界人類に最後の裁きを下す際には、救われることはないんだ。選ばれし民である自分たちに対するこれは試練なのだ。
 そんなことを考えながら、高屋敷はなんとか車を駐車場から出すべく、長い戦いを始めた。
 
 
 買い物などの用事を済ませ、所有する月極駐車場の一角に車を停め、帰宅した橋下は書類を見ながら大きくため息をついた。
 今月も、家賃が振り込まれていなかった。滞納されるようになって、もう既に半年が経つ。立松とかいう自称作家の学生に貸してやっていたら、いつの間にか出入りしていた彼女が妻になり、赤ん坊ができ、生活が苦しいことを言い訳に家賃を払わなくなった。こちらとしては、家賃を払わないなら出て行っていただきたいのだが、自称作家故、無駄に言葉だけは立ち、やたら叙情豊かな抗議文を送ってくる始末である。そんな封筒が膨らむほど分厚い抗議文を書いている暇があったら、せめて本当にお金になる文章を書いたり、それが無理ならバイトでもしたらどうなのだと思わざるをえない。あまりにもドラマティックにストーリーを捏造されているため、登場人物としての自分がものすごく悪役になったようであり、一瞬面白くなった後、大変に気分が悪い。
 法的手段に出ても一向に構わないのだが、それに必要な手間や金や労力を思うとなかなかそれにも踏み切れない。
 ああいうダニみたいな奴が、世の中の善意を食い潰していくのだろうな。早く出て行ってくれますように。
 そう願いながら、半年間振込記録がない通帳を見て、もう一度橋下は深くため息をついた。
 
 
 立松は苛立っていた。朝方彼らを苦しめた騒音が、昼を過ぎてまた響き渡り始めたからだ。今回、文句を言われているのは立松ではなかった。だというのに、どうして俺が迷惑を蒙らなければならないのか。
 拡声器で増幅されたダミ声に、さっき寝付いたばかりの子供が再び泣き始めた。窓の外からのオバさんの怒鳴り声と、赤ん坊の泣き声。これでは執筆に集中できないではないかと、立松は壁を殴った。壁が拳の形に凹んだが、それは壁が安普請なせいだ。
 だいたいどうしてこんなしけた町にすまなくてはならないのか。自分の才能が認められさえすれば、書いたものが金に換わりさえすれば、大豪邸に住めて、そうしたらもうこんな瑣末なことを気にする必要もなくなるのだ。防音室だってつけられる。
 こんな才能の持ち主に、たかが家賃などという俗世事で冷たく当たった大家も、親切にしてサインのひとつももらっておけばよかったと公開するに決まっているのだ。そんなことを考えながら、紙に書き散らすは理想と現状への呪いの言葉。

 どうしてこんなしけた町に住んでいるのか。その本当の理由に気づくまで、きっと彼らはここから出られないとも知らずに。