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司令官は名古屋嬢 第4話 『やっかいな存在』

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 そのころ、中京都軍本部の司令官室では、大須が少佐と電話して
いた。真剣な話のようで、彼女は少しも笑っていなかった。

「……それでは、プラント側とは、うまく話を収められたというわ
 けですね?」
『これ以上、面倒な争いごとを起こしたくない点では同じだからな。
 ……ただ、向こうの要求を一つぐらい多めに聞いてやったけどな』
少佐は疲れた様子でそう言った。
「……捕虜の釈放ですか?」
『そうだ。……まあ、もう用済みの存在だからいいんだ』
「……そうですか」
『だが、大事なカードを一枚捨てたことには違いない』
「申しわけありません。関係した隊員たちには重い処分を下します」
『……その話なんだが、「オレ個人としての要求」として、守山以
 外の隊員はクビ、守山は原発の警備に就かせろ』
少佐のその要求を聞いた大須は、額に手を置いた。
「……原発って、静岡県の浜岡原発ですよね?」
大須は希望がこもった口調でそう言った。だが、少佐は、
『……正確には「元原発」で、今は工場になっているが……、福島
 県の『旧福島第一原発』だ』
「……左遷しろってわけですか?」
大須は躊躇することなく、少佐に尋ねた。
『……ちょっと頭を冷やしてもらうだけだ』
「本当にそうならいいですけどね」
大須は嫌味っぽくそう言った。少佐はそこでしばらく黙った。そし
て、静かな口調で、
『大須。おまえには早くCROSSの一員になって、オレの役に立
 って欲しいんだ。あまり問題を起こさないでくれないか?』
「……それは、ありがとうございます」
『じゃあ、また電話する。上の人間を待たせているからな』
「はい」
そして、電話は切れた。

 大須は頭を抱えて、しばらく考えていた。守山に何と言ってやれ
ば言いのかを考えているのだ。これから守山は、最悪の左遷場所に
行くのだ。

 事故が起きた8年近く前まで原発だった『旧福島第一原発』は、
確かに今は工場になって、原子炉の廃炉作業も同時進行だ。既に愛
知県軍の隊員も警備に就いており、重要な場所だといえる。
 だが、周囲30キロメートルは事故から30年が経過する異次元
暦42757年まで立ち入り禁止になっており、ゲリラからの攻撃
を避けるために空路でなければ行けないような場所だ。落ち目か物
好きな人間しか行かないような勤務地だ。懲戒免職になったほうが
マシな左遷といえる。報復人事以外の何でもない。

 やがて大須は覚悟を決めた様子で、守山に電話をかけた……。