「ツアコンは見た!」
(ひとりで大丈夫かしら?)
空港での言葉が脳裏をよぎった。初めての一人旅は、さぞ心細かったに違いない。
完成した石文字をしばらく見詰め、揃って視線を上げる。
「私は、元気でやっておりますよ」
ドロミテの空に『J.O』の残像がくっきりと浮かび、やがてそれは涙でかすれた。
なぜ人は旅をするのか。
日常からの脱却、それだけではない。
旅を通じて私達は自分自身と向き合い、時としてそれは人生の転機ともなり得る。
大袈裟だろうか。そもそも、二十歳そこらの小娘が生意気に言えたことではない。
ただ、そんな「旅」に携われるならば……。
私はこの仕事を、あともう少しだけ続けてみようと心に思った。
作品名:「ツアコンは見た!」 作家名:樹樹