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路上の塵芥

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羞恥の一過 

赤赤とした砂漠の季節に胸元を砂の仔細たちが攪拌する。
何人が感ずるところの思春期の、思い煩いの、あるいは焦燥の、言葉で筆し難いところの
その通りを、神へ向かいて踊り踊る。
 通りの商人は林檎を吾に差し出す。
食べた吾には、小賢しさがあった。それは単なる砕くことの敵わない壁への折り合いであった。
人々は反抗と呼んだ。心の青の部分で彼は嘲笑の顔で自らに立った。
 滑稽だ。深刻だ。なにもかもは綯交ぜだ。
赤よ。黒よ。白よ。
 神々を信じられぬ無心論者風情はこの頃だ。
死を恐れず、求愛に費やすは、この思春期だ。
 赤い陰部は、おまえを誘っている。能無しだ。芸がない女同胞諸氏。
男も女も同罪だ。
 割り切れるものだけが、狭い通りに導いた。その路地で、彼は腰を下ろし、
大通りの人を見る日々を続けた。
 これらの日々に於いて、感傷に棹すのは死に近い。
察し良い彼は無感覚の皮膜で、大通りを歩く使徒となった。
 心の底には黒たまりを持って、鳥葬の贖いをときには求めた。
安らかに眠れ。そう吾に言い聞かせるは、青春。
 青青とした未来の白光が見える。胸元を擽る木枯しが、
秋草を捲き散らかしてゆく。
 乾いた目から見る世界は、死海の静謐さだけが映った。
それは青春という日々の、狭量な世界だ。
 詩聖でさえも、煩わしい。ああ自棄だ。地獄こそ天国。紙を破れ、
ドアを開けろ。通りを闊歩しろ。臆面もなく、悪びれることもなく、
頭を上げろ、頭を下げろ。
 堕ちることのない底は、上がりきった終の住処だ。
 ここで、生きることの覚悟と、その祝福を。
神よ。
 吾は信じていよう。山々、海、珊瑚、ジュリア、オパール。
 水面に寝そべり吾は眠る。
打ち寄せる波だけが優しかった。その奔流に溶けてしまいたかった。

 個室の煌き

 夜庵。衒いなくありたいと、それでも背伸びしたがりな豪奢風情の弱虫が
夜泣きの赤子のように喚き出す。
 心の奥底の繁茂たちが、蛆虫を伴って脳を浸してゆく。
 臭気の腐ったその個室には、陳腐な欲しか渦巻いていない。
肥大する自己顕示、自己嫌悪、過去の反芻。
それらはまやかしだ。
 精神病院を通いつめるお前の手中には、白い粒だけが机に積みあがってゆく。
埋葬される明日を願い、その裏で旧友は既に男女として契りを結んでいる。
我が物顔である。どこか得意げである。どこかそれを鼻にかけた余裕と風情をお前は感じる。
 殺意。陳腐だと嘲笑う。嫌悪の渦の中で、自傷の一時に身を窶す。
鏡には死骸が映っている。お前の周りには羽虫ばかりが集る。
 孤独。個室。そして夢想。
あらゆる無為と、連日の祭日。手を上げる。
 ここで、午前三時の光のベールに取り巻かれ、
お前はどこにいこうというんだ?
お前はどこにいるというんだ?

 顔色
伺うはその色。何色なんだ。何色が恐ろしいというのだ。
煩悶は、自己へのみ突き刺さる針だ。アイスピックは何処だ。
氷が皮膚に張ってゆく。緊縛が前へと進む歩を遮ってゆく。
それは幽霊の仕業だ。
自明に頼りすぎた憐れが、ここに至らしめた。
 地獄の門は開かれていた。すすんで底へ入ってゆくだけの
勇みはあった。天国にはやることがない。
 克服しようという移動だけが、メリーゴーランドのように人々の脳内で廻っているんだ。
彼はそれが見えるのだ。見えたということで、部屋に居座り、
それは体感したかのように、焼きついて、離れないのだ。
 塵芥の創造だけが積みあがり、その時いたのは、天高いところだった。
地獄の天高いところで、暗部にひんやりと接しながら、
お前は身震いしているのだ。それを廻りはどうみていると思う?

 皿洗い
規則正しい機械めいた身体がゆっくりと氷ついてゆく。真夏の嘆息が
真冬の白い息に瞬時に変わってゆく。
 貯まりの言葉たちはどこへにもゆかず、誰にももちろん届かないのだ。
人々は苛立っているだけか。夏はコンクリートから湯気が出ている。
街は灰色か。老婆は午前の光に祝福された病院通いだ。
 その午前の光にあっては、不具者と女子供と、老人たちの歩きばかりであった。
そうしてお前は彷徨っている。観察しながら。お前がお前を観察しながら。
嫌悪から逃れられない性欲が沸き立ってくる。
腹の底の団子虫。翼のない鶏。苔の生えた歯の裏。
 遮られた駅の入り口。
規則正しい機械めいた身体へゆっくりと変貌してゆく。
時間だ。お前はそうやって機械になる。
とちくるってゆく。感情は無駄に使われる。
役立たずの思い煩い。それらは小悪魔的に微笑をたたえている。
 畜生め畜生め。
延々の徒労。皿回し。お前のお前への言葉。
お前は眩暈のしている中で、とちくるってゆく。
 病院は近い。午前の光の中も近い。

 酔い
性質の悪い酔いだ。縺れ足で彷徨うのは寄せ。
なにせお前の顔を見ただけで、店の客たちは帰ってゆく。
生きて嘯かれ、死して嘯かれ、どこに賞賛される地はあるのか。
虚栄を吐き出す酒場。女をひけらかす言葉。
欺きは自己満足だ。欺瞞だ。よく分かってるじゃないか。
ダンスを見せるのならもったいぶるな。
虚飾は棄てろ。裸になれ。
吐き棄てろ、反吐を。曝け出せ、臓物までを。
その肝臓の血脈が、とくとくと波打つたびに押し寄せるお前の吐気。
お前は酩酊している。それは詩のせいか、文学のせいか。
なににしても酔っているよ。
 さぁ、準備はできたはずだ。
さぁ、死のうかな。二転三転のお前の心には本心なんてありもしない。
流れるだけの日々に、解決も、結論も、目的もない。
絵画的にお前は画の中に含まれた。題目は勿論酔いどれ。

 俗の軽蔑
 足を組みワインで喉を動かす姿。
倦怠に頭を抱え、憂鬱に感けているきみの姿から、染み出ている異性への気配り。
誘っている。そうして、拒んでいる。
両義的な心で神への忠誠も誓う。混乱だ。
 全色を混ぜたクレヨンは、何色だろう。
それはキマイラの色。それに美を見出すものもあるだろう。
狭量な宇宙で、君は青春の時分に閉ざしてしまった扉がある。
 その扉をノックする音を、毎夜、ベッドで願っている。
そういった自分も軽蔑している。安易ではないと、
そう安楽に流れてはなるまいと、
やはり神への忠誠を近いつつ、やはり願い続ける。
 さぁ、もう、寝てしまおう・・・

 現代
 前提からして思い込んでいる。やはり大衆は、そうなのだ。
彼はひとり合点をするのだ。夜の自室で考えるは社会だ。
しかしそれは君だ。お前を思うお前も君だ。
 あらゆるものは君だ。閉ざされている。ひとりいるときは。
橋を渡ってあなたの元へ入ってゆく。未知。
 既知は損だ。知るは安い。なにせ誰にでもできる。
あなたは凄いわけではない。通常の人が演奏できるように楽器ができているだけだ。
 賛美すべきはあなたではない。すべては周囲だ。
光の粒子は世界に降り注いでいる。宴の酒の雫たちだ。
 涙は頬を伝う。最後尾で君は平静で孤独でいようとする。
胸元から取り出したメモに詩を書くのをやめろ。
 なにも思うな。一切を通過し、そして通過しろ。
通過する先も通過し、永遠の未完結が、存在している。
 24時間休むことのない気が消耗してゆく。
作品名:路上の塵芥 作家名:葵.