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こんぶ -Reloaded-

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僕の時間はピンボールと共に。
 彼女の時間は小説と共に。
 そんな風にして僕らの時間は過ぎて行った――――
そう言えば少しは格好がつくのだろうか。実際のところどうなのかは僕にはわからない。ただ一つ確実に言えることは、僕たちは流れていく時間を止めようなどとは微塵にも考えなかったということだ。


 放課後きまって足を運ぶ場所がある。僕の通っている高校の文化棟二階・パソコン室だ。何故かと言えば部活があるからである。
 僕はコンピューター部に所属していた。しかも部長として。団体を仕切るなんてのは苦手だ。しかし部員の大半が幽霊化したのではしょうがない。律儀に部活に参加しているのは僕だけだったから、まぁ先代部長としても僕に職を譲るほかなかったわけだ。苦渋の選択にケチをつける気も毛頭ない。だから特に拒否の態度を示すことなく引き受けることにした。
 コンピューター部ってところは本当にすることが無い部活だ。ネットもゲームも基本的には禁じられている。部員に許されているのはワードだのエクセルだので、娯楽的要素が徹底的に排除されている。良く言えばストイック。悪く言えば何も出来ない。そんな部活なのだ。だから入部した人間の多くは、五月にして大半が籍だけを残し活動に参加しなくなる。僕の代では当初二十人ほどが入部したはずだったが、ゴールデンウィークが明ける頃には二、三人になっていて少し驚いた。そのことを先代の部長に話すと、
「去年もこんな調子だったよ」
 と、素っ気ない答えが返ってきたので、
「じゃあ来年は?」
 答えを予想するのが極めて容易な質問を敢えてぶつけてみると、部長氏は予想通りの回答を出してくれた。
「同じだろうね」
 よく廃部にならないものだなと思った。部長曰く、何人かは参加し続ける奇特な人間がいるからそいつらに役職を押し付けるんだ、とのことで、今回はその奇特な人がたまたま僕だったというわけだ。実はもう一人奇特な人間がいてそいつが副部長をやっているのだが、彼女は部活はおろか最近では学校にさえ出てきていない。僕はやることもないので、来る日も来る日もパソコンに最初から入っているゲームの一つであるピンボールをこっそりプレイして時間を潰していた。
 今年はろくに勧誘活動を行わなかったにも関わらず、というか僕一人ではどうしようもなかったし、さらにはどうもする気はなかったというのが実際のところだが、なんと二十一人が入った。女子生徒も六人いた。
 しかし一月経って残ったのが一人。八条岬という名の女子生徒だけだった。

 これから始まる物語は、主に僕がひたすらピンボールをプレイし、斜め後ろの席で八条がひたすら小説を書き、お互いそれに飽きたらお喋りをするというものである。

 放課後、いつものように掃除を終えてまず向かうのは、文化棟一階・職員室前にある部活掲示板である。僕の教室がある一般棟の二階からわざわざ確認に行くのは面倒なことこの上ない。しかし部長という肩書を得てしまった以上はサボるわけにもいかない。運動部の連中が慌しく行きかう中をすり抜けて掲示板に向かうと、これまたいつも通り下手な字で「本日活動あり」と書かれていた。腕時計を見れば既に三時二十分を過ぎていた。多分八条の奴はもう来ているんだろうな、などと考えながら階段の方へと向かった。
 階段を上がって右手に曲がった奥がパソコン室である。この安易な名前はどうにかならないのだろうかといつも思う。隣接する管理のための部屋は、情報制御室とかいうなんだかサイバーなお名前を頂戴しているっていうのに。なんか不公平だ。ちなみにこの情報制御室は顧問である山田先生(あだ名は『見た目が絶望先生』)の根城となっている。山田先生は午後三時に部屋を開け、午後五時になると閉めに来る。コンピューター部の実質的な活動時間はたったの二時間ぽっきりということだ。この時点で既にやる気のない部活ということが明瞭だが、さらには先生のいない日だと活動はない。詳しいことは知らないが、見た目が絶望先生は割と忙しいようで、大抵週に二回は活動が休みになる。
 中に入ると八条はすでにいた。目が合うと「こんにちは」と挨拶をしてきたので、「やあ」と返す。八条は大抵入ってすぐ壁際の列の最奥に座っている。僕はその向かいの列の八条から二つほど手前の席に着いた。鞄を床に置いて電源を入れる間にも斜め後ろからはカタカタというキーパンチの音が響いてくる。振り返ってちらりと八条の方を見やると、いつもどおりワードで小説を書いているようだった。こいつもよく飽きないな。そう思ったので実際に声に出してみることした。
「また小説書いているのか?」
 僕の言葉に反応して八条の手が止まる。椅子を回転させて僕の方に向き合うと、
「またっていうのはなんか失礼なニュアンスが含まれているような気がするんですが」
 入社三年目のOLのような冷めた口調で言った。細いメタル・フレームの眼鏡をかけているからも知れないが、こいつが黙々とパソコンに向かっている様子はどう見てもデスク・ワークに励んでいるようにしか見えない。きっちり着こなした制服もそれに一役買っている。見た目だけで言ったらよっぽどこいつの方が部長らしく見えることだろう。口調から分かるとおり貫禄だって僕よりあるような気がするし。
「別にそういう意味で言ったわけじゃない。気を悪くしたのなら謝る」
「あ、いえ、そんな大袈裟な。あー、まぁ私の言い方も多分に悪かったですね。すいません」
「別にいいよ。で、書いてるの?」
「まぁ……そりゃ書いてますよ。一応これでも文芸部志望でしたから」

 八条岬がこの部にいる理由。それは自由に小説が書けるということ――らしい。本人が言う通り元々は文芸部に入りたかったようだ。しかしうちの高校には残念なことに文芸部は無い。
「だから入学した時点で諦めてはいましたよ」
と、四月に初めて話した時そんな風に言っていた。漫研が出している冊子にも小説とか載っていたぞ、と僕が言うと、
「あそこは絶対ダメです! なんて言うか……とにかく私レベルの人間では生き残れる確率ゼロです! 進んで地雷を踏みたくはないので入部は遠慮させて頂きました」
 と、かなり必死の形相で言うので、あ、でもあんな八条を見たのはあの時が初めてだったな。それ以降は持ち前のクールさを順調にキープしているし。まぁとにかく漫研を覗いて地獄を見たというのがひしひしと伝わってきた。漫研については語るまい。なんとなくわかりそうなものだろう。

 既に起動した僕のパソコンに一瞥をやりながら八条は言う。
「しかしまたって言うなら先ぱいだってそうじゃないですか。毎日毎日ピンボールしてて楽しいですか?」
「別に楽しいからやってるわけじゃないさ。ソリティアとマインスイーパーよりかは幾分マシだと思ったから」
「……選択肢が狭すぎないですか?」
「この部に入った時点でそんなものとっくに捨てたよ」
「で、私に何と言えと? 潔いとでも評価されれば満足ですか?」
「うん。割と」
「じゃあ先ぱいはすっげぇ潔い益荒男ですね。はい、これでいいですよね」
作品名:こんぶ -Reloaded- 作家名:黒子