キツネ目をつかまえろ
邂逅
カラオケをCDに録音したい、とミニメールで云って来たのは、ユッキーさんだった。早川はそれが可能な店をネットで調べ、十分後には結果を報告した。ユッキーさんは、「お世話様です。歌は少し自信があります。バンドで歌っていたこともあります」というコメントを送信して来た。
屋外は雨模様になっていた。ビニール傘を開く。気温の降下が著しい。カウンターだけの洋食屋がある。カレーライスなど、嘘のように廉価だ。しかし、我慢。
目を背けると車の屋根に犬のマークの「ワンコインタクシー」が通過した。コイン一枚で乗れる、初乗り五百円のタクシーである。ワンコがINのタクシー、というダジャレを思いつき、笑ったこともあるが、今や、笑いごとでは済まされない。価格破壊が景気の悪化を助長し、生活破壊を進行させている。三割引きには勝てない。追随して値下げを断行するタクシー会社も増えている。犬におしっこをかけられたような気分だ。
無差別殺人や、それに類する事件が時折ニュースになる。最近はタクシーの乗務員が殺傷事件の被害者になることも珍しくない。
タクシーをターゲットとする「当たり屋」も出現している。犯人は二人組で、一方が乗車して狭い道へ誘導し、もう一方が十字路の物影に待機して、タクシーが来たら飛び出して虚偽の人身事故被害者となる。
作品名:キツネ目をつかまえろ 作家名:マナーモード