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キツネ目をつかまえろ

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「早川さんはロードレーサーでしたね。公道でそんなにスピードを上げるのはやめましょう。良識のある大人のすることではありません」
早川は衝撃を覚えた。うろたえて、伏し目になる。
「そうですね。でも、去年の暮れ頃からは全然乗ってません。暑さ寒さに弱いんです」
「趣味で乗るなら適した条件のときだけ乗ればいいんですよ。あくまでも愉しんでください」
 早川は気を取り直して云った。
「その点、プロの世界は厳しいでしょうね」
「どんな職業の人でも、メシのためには考えられないような悪条件の中で素晴らしい能力を発揮してますよね。世の中の一人ひとりが超人ばかりです」
「タクシーは一乗務二十時間で、ときには二百五十キロ以上も走るんです。でも、そんなに走ったって世間並みの収入は得られません」
 早川はまた気落ちした。
「収入ですか。それは時期が来ればあっさりと転がり込んで来ますよ。天下の回りものですからね、忘れた頃にやって来ます」
 結城は常に余裕を感じさせながら話している。
「そうですか。じゃあ、希望を持たせて頂きます」
 早川は心にもないことを云った。