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キツネ目をつかまえろ

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 たじろいで一歩後退した早川を見ながら、若い男はそう云うと大声で笑った。
「録音できるカラオケボックスは駅の反対側です。そこのエスカレーターで行きましょう……結城さんだからユッキーさん……」
「そうではなくて、ゆきひろです。幸福の幸と太平洋の洋」
「それじゃあ確かにユッキーさんですね。納得しました……結城さんこそ男前ですね」
 結城が声をひそめて云った。
「やめましょう。男同士で顔褒め合って、誰かに聞かれたら云い訳もできません」
 二人で苦笑しながら周囲を見回した。帰宅を急ぐ人々の密度は更に増していた。
 エスカレーターの左側に立った早川の真後ろに、結城が続いた。早川は手摺を背にして身体を捻り、背後に説明する。「……CDに録音できる部屋を予約してあります。場所は駅から、五分です」
「十分じゃなくて良かったですね。『じゅうぶん』、だったら疲れますから」
 見上げている結城の眼は澄んでいると思った。「なるほど、充分に歩かされたらたまりませんね」
 改札口の前の通路の雑踏を歩きながら、二人はまた大声で笑った。
 再びエスカレーターで降りた二人は、反対側の駅前広場のタクシーの列を見ながら商店街へ入って行った。