キツネ目をつかまえろ
梅雨入り前
待ち合わせの場所こそは、天国にも地獄にもなり得る。その重要な場所を、駅前の宝くじ売り場の横ということにしたのは、初めてそこを訪れても、迷う心配がないからだった。人通りの多いその場所に着いたとき、早川学は時計を見た。約束の十九時までには、まだ五十分もあった。
ビニール傘を邪魔に思いながら、ネオンサインの様々な色に染められた歩道の上を、彼は所在無げな足取りで歩き出した。
厚い雲に覆われた夕暮れ時の空は随分暗いのだが、降るのか降らないのか「ビミョウ」だ。あと数日で梅雨明けだと、昨日のラジオは報じていた。現在の気温は二十六度以下と推定できるのだが、湿度が高いせいか鬱とうしい。地球の温暖化のせいだろう、今年は真冬でも、耐えがたいという程寒くなることは希だった。
彼にとって、最大の難関は真夏の猛暑である。それと、予告なく襲って来る梅雨の中休みの高温多湿も、彼にとっては実にありがたくない気候だった。
飲食店が目につく。焼き肉、牛丼、イタリアン、中華料理、日本蕎麦、回転寿司。空腹感が視覚に影響している。どの店にも若い男女のカップルが目立っていた。
作品名:キツネ目をつかまえろ 作家名:マナーモード