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てっしゅう
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「神のいたずら」 第四章 両親と優

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「思い出の品物ですものね・・・お気持ちはわかりますよ」早苗はそう慰めた。
「ええ、そうなんですが・・・妻と話し合って、これから生きてゆくために一つずつ遺品を仕舞ってゆこうと考えているんです」
「どうしてですか?」
「はい、辛いんです・・・忘れられないことが。思い出の品物をなくしてしまえば、一つずつ忘れてゆけるんじゃないかと、そう思いまして・・・」

そんなものなのか、と早苗も碧も思った、いや隼人は思った。

二人は隼人が使っていた部屋を案内された。

「ここが隼人の部屋なの・・・まだ何も片付けられなくてそのままなんです」母親はそう言った。
「お母様・・・それで宜しいんじゃないですか。時が経って気持ちに区切りが着かれたら、ゆっくりと整理なされたら」
「先生の仰る通りかも知れませんね・・・主人は片付けて行こうと言うのですが・・・」

かって知った自分の部屋だった隼人はあるものを見つけた。
それは写真楯に入っている優との写真だった。手にとって眺めていた。

「碧ちゃん、隼人と一緒に写っているのは恋人の前島優さんって言うのよ。隼人と同じ先生されているの。お葬式にも来てくださったの。綺麗な人でしょ?優さんも隼人が好きだったのに・・・なんでこんな事に・・・」
母親は泣き出してしまった。

「母さん!・・・」
「エッ!」
「いや、ごめんなさい、おば様・・・」
「ビックリした・・・呼び方が隼人に似ていたから・・・」
「この人知ってるよ。前島先生。今学校で英語習っているから」
「本当に!・・・東京でしたわね碧さんも・・・そんな偶然があったのね。そうだ、思い出したわ」
隼人の机の一番上の引き出しから封筒に入った手紙を取り出し碧に見せた。

「これね、宛名が前島優さんへ、ってなっているの。もう直ぐ彼女のお誕生日だから、隼人が前もって書いていたような気がするの・・・渡せなかったから、学校へ持っていって渡してあげてもらえないかしら・・・いまさらとは思うけど、読むかどうかは前島さんの判断で構わないからって付け加えて頂けたら嬉しいわ」
「はい、お預かりします。先生に渡しますから安心してください」

高橋家からの帰り道、碧は何度か振り返って自宅のあった方を見た。もうここには来る事が無いだろう・・・そう思うと寂しさというよりは、自分の中にあきらめを見出そうと決めた。
「早苗先生・・・今日は連れてきてくれてありがとう。気持ちが決まったよ。小野碧になる・・・ならないといけないって、そう思うから」
「碧ちゃん・・・良かった。あなたがそう思えるようになって」

手にしっかりと握り締めている優への手紙も、渡すことへの迷いはなくなっていた。


新幹線が東京駅に着いた。由紀恵はホームに迎えに来ていた。碧の姿を見つけて駆け寄っていった。

「碧!お帰り!無事でよかった・・・先生ありがとうございました」
「ママ・・・そんなに心配だったの?」
「うん、ずっとあなたのこと気になっていた・・・こんなに少しの時間なのに、離れているのかと思うと・・・落ち着かなくて」
「ママ!碧は・・・」
大阪の母のことと気持ちがダブって隼人の感情が碧の涙を誘い出した。
早苗は、もう碧が大丈夫だとこの姿を見て判断した。

「由紀恵さん、私はここで失礼します。碧ちゃん、じゃあまたね」
「先生!今日はありがとう」

碧の方から手を差し出して由紀恵と並んで歩き出した。
「ママ、名古屋の人ね、隼人さんって言うんだけど、恋人が居てその人前島先生だったの。びっくりしたでしょ?」
「本当なの?英語の先生よね・・・じゃあ、先生も悲しい思いをされているのね、かわいそうに・・・」
「うん、そうだね。碧が慰めてあげる。この手紙渡してって向こうのお母さんから頼まれたの。先生宛になっているから、多分・・・」

中身は知りすぎている隼人だったが、予想するように、
「ラブレターだと思うわ」と続けた。

「大切なお役目ね・・・先生がその手紙をご覧になってどう思われるのか想像すると切ないけど、大切な思い出になるわよきっと。違う人を好きになっても初めての恋は忘れられないものなの・・・あら、あなたには早かったわねこんな話」
「ママは、初めての人を忘れられないの?」
「何を言うのよ・・・パパが初めての人なんだから、ママは」
「何が初めてだったの?」
「もう、突っ込まないで・・・解からないくせに」
「ママ・・・碧にも好きな人が居るのよ・・・前島先生の気持ちも解かる。もう子供じゃないんだから」

この返事には由紀恵は驚かされた。いつまでも子供だと考えていてはいけないんだと碧の顔を見て、自分に言い聞かせた。

月曜日の昼休みの時間に碧は職員室を訪ねていた。
「前島先生、一年一組の小野です。お話があるのですが、構いませんか?」
「あら、碧ちゃん。何?こちらに来なさいよ」
「ここでは少し人目が気になるので別の場所にして頂けませんか?」
「そう・・・どうしましょう・・・何の話なのかしら気になるね。校長先生がお休みだから、そこで聞きましょうか」

隣の校長室に二人は入って着席した。碧はかばんから手紙を取り出して、テーブルの上にそっと置いた。『前島優さまへ』と表書きされた封筒は優の見覚えのある文字で書かれてあった。

「碧ちゃん、これ!ってどうしたの?」
「私もあのトンネル事故の被害者なの。遺族が集まる会でちょっとしたきっかけがあって、昨日大阪まで行って来たんです」
「そうだったの!・・・知らなかった、あなたも被害者だったなんて・・・元気にしているから。大阪って・・・高橋さんのご両親に会われたの?」
「うん、お家まで行って、お焼香もしてきたよ。その時にお母様から先生の事話したら、これを渡してって頼まれたの。この手紙の人・・・隼人さんって言うんでしょ?」

封筒を手にしてじっと眺めていた優の瞳から、大粒の涙がこぼれだした。碧は向かいあっている席から隣に移って優の身体を抱いた。

「碧ちゃん・・・ゴメンね、先生泣いたりして・・・ありがとう、優しくしてくれて」
「泣いて構わないよ。悲しい時はそうして忘れるようにするの。涙が枯れたら泣けなくなるから・・・いつかそういう時が来るよ。碧が傍にいてあげる。先生のこと守ってあげる」
「そんなことまで言ってくれるなんて・・・」肩を震わせるように泣き始めた優を強く小さな身体で碧は抱き締めていた。

優は自分を慰めてくれるようにしている碧が心なしか頼もしく感じた。不思議だ。こんな小さな子に大人が癒されるなんて。
「先生、今度私の主治医を紹介するよ。精神科の女医さんで、早川早苗って言うんだよ。とっても素敵な先生。相談するときっと気持ちが治まるよ」
「そう・・・精神科の先生に通っているの。あなたも辛いのね・・・先生だけ泣いちゃって、なんか情けないな・・・大人なのに」

休憩時間終了を告げるベルが鳴った。

優は隼人からの手紙を読もうとはしなかった。今の心境では辛すぎるからだ。家に持ち帰りいつか開封しようと机の引き出しに仕舞っておいた。