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新世界

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「フォン・シェリング大将は近日中に再度宣戦布告をするつもりです。閣下、どうなさいますか」
 オスヴァルトはじめ、秘書官達が緊張した面持ちで此方を見つめる。皆、私の意志に賛同してこれまで様々な事案に協力してくれた。
 この大事の時に彼等には申し訳無いと思うが――。
「出掛けて来る」
「閣下……」
 机の上に、皇帝の許に持っていった条約の文書を置く。机の中に置いてあった拳銃を取り出し、それを上着の内側に収める。机の上に書類が何枚も重なっていた。これらの書類はオスヴァルトに任せておけば大丈夫だ。
「……閣下。どちらにお出掛けですか……?」
「お前達は通常業務を」
「私は閣下にお伴します」
「必要無い」
「ではどちらにお出掛けか、お答えください」
 オスヴァルトは詰め寄った。何か察したのかもしれない。
「オスヴァルト。これから私が行うことに、お前達は一切関与しないでほしい。憲兵や陛下に何を問われても、何も知らなかったと答えろ。良いな」
「閣下! 何をなさるおつもりですか!?」
 扉に向かいかけた私を、オスヴァルトが阻む。退いてくれと告げても、オスヴァルトは其処を退かなかった。
「フォン・シェリング大将が暴挙に及んでいるとはいえ、まだ何か策がある筈です。それをお考えにならず強固な手段に出るなど閣下らしくありません……! 閣下、どうか……」
「其処を退いてくれ、オスヴァルト」
「いけません……!閣下!」
 仕方が無い――。
 オスヴァルトに近付いて、済まないと耳許で囁いてから、握り締めた拳で鳩尾に軽く一撃を与える。オスヴァルトが呻き声を上げて、その場に崩れ落ちる。秘書官達が慌てて駆け寄った。
「私はオスヴァルトに危害を加え、この宰相室を出て行った。何があったかは解らない――皆にはそう説明しろ。良いな?」
「お待ち下さい、閣下……!」
「頼んだぞ」
 オスヴァルトが私に向かって手を伸ばした。済まない――もう一度そう言って、宰相室を後にする。階段を下りて、足早に宮殿の裏口へと向かう。それから宮殿を出て、大通りに向けて歩き出した。
「至急、私の車をトロワビルの裏まで持ってきてくれ」
 宮殿から出たところで、ケスラーに電話をいれ、車を手配する。私の位置からも、邸からも、トロワビルまで五分ほどで到着出来るだろう。
 オスヴァルト達には悪いことをしたが、私はもうこれ以上は帝国の惨状を見逃すことが出来なかった。皇帝の操り人形になりたくなかった。
 トロワビルに到着すると、其処にはまだケスラーの姿は無かった。もう少し時間がかかるかもしれないと思っていたところ、車が見えた。ケスラーは私の前で車を停めた。
「フェルディナント様、お言い付け通り、フェルディナント様の車をお持ちしましたが……」
「ありがとう。済まないが、此処からは歩いて帰ってくれないか? それから伝言を頼みたい。パトリックに、困った時は書棚の奥を見ろ、と伝えてくれ。……それと皆に済まない、と」
「フェルディナント様、何をなさるおつもりです……?」
「頼んだぞ」
「フェルディナント様!」
 エンジンをかけたままの車に乗り込み、すぐに発進させる。運転をするのは一年ぶりだった。いつもケスラーに運転してもらっているから、この車を動かすのも久しぶりで、メンテナンスは行き届いているとはいえ、少々心許ない。自動運転に切り替えて、行き先をバルト収容所に設定する。此処から十五分で到着できるだろう。


作品名:新世界 作家名:常磐