新世界
その筈だ。ルディは手術後のことを、あれだけ確りと見据えていたのだから。
今、諦める筈が無い。
約束したのだ。一緒に連邦と共和国を巡ると。
あの時のルディは嬉しそうな表情をしていた。だから――、絶対にルディは目覚める。数時間後には必ずまた――。
ルディの鼓動がまた弱々しくなる。つい先程、投薬したばかりだった。トーレス医師は看護師から注射器を受け取り、薬をルディの身体の中に流し込む。
何度目の投薬か――、もう解らないほど、同じことが繰り返されていた。
ルディはぴくりとも動かない。
「ハインリヒ様。手を握って差し上げてください」
心電図の音がその次に乱れた時、トーレス医師は俺に促した。ルディの手を取った時に触れた手首からは、殆ど脈を感じることが出来なかった。
「ルディ……」
その手を握り締める。ルディが手を握り返してくれるかもしれない。まだ暖かい。大丈夫だ。ルディは少し弱っただけだ。
絶対に大丈夫だ――。
必ず――。
また必ず――。
トーレス医師が薬を投与する。
だが、それから暫く経ってもルディの乱れた脈は元に戻らなかった。心電図の音がその間隔を広げていく。
「ルディ……?」
「フェルディナント様……!」
ミクラス夫人やフリッツが叫ぶように呼び掛ける。
ピッと音を立てた心電図が音を止める。
それからピーッと長い音を奏でる。
トーレス医師が一度ルディの身体から離れるように指示した。握っていた手を放し、側を離れると、ルディの身体に除細動器が装着される。
ルディの身体が一度大きく動いた。
心電図の波形が大きく触れ、その動きを復活させる。ところが、暫くするとまたピーッという無情な長い音を奏でる。トーレス医師は何度かそれを繰り返した。
……嘘だ。
これは悪い夢だ。昨日はあれだけ具合が良かったではないか――。
トーレス医師はルディの瞼をそっと開き、其処に光を翳す。
それから時計に視線を下ろして、此方を見遣った。
「午後六時二十三分、ご臨終です」