7月の夜、公園にて。
いじめはきっと無くならない。きっと飽きるまで続く。僕は今まで通り身体を傷付けられ、心も傷付けられるだろう。
それは、耐え難い事だ。味方が居ない学校。先生には見放され、親には何も言えない。でも、だからといって投げやりにして良いのか。嫌だ。それは嫌だ。
「ふっ、何でだろ。涙、止まらない」
流れ続ける涙。現状に悲しんでいるのではない。これは負の感情ではない。
「大丈夫か?」
見知らぬおっさん。偽善者臭い。でも、悪い人ではない。
「ねえ、お願いがあるんだけど、良い?」
あ、また流れ星。
祈ろう。七夕の夜の流れ星だ。きっと、必ず叶う事だろう。
「何?おっちゃんに出来る事なら聞くぞ」
男の眼が弧を描いた。嗚呼、この人はこんな風に笑うんだ。それは心からの微笑。それは何だか頭上の星たちに似ていた。
「また会おうよ。来年の、七夕に」
男の笑みを見ていたら自然と表情筋が緩まった。自分は今、笑んでいる。
「来年の七夕に?」
Yシャツの袖で涙を拭う。すると目の前には男の星のような笑み。そして、何処までも続いているだろう、満天の星空。
「来年の七夕もこんな状態だったら、おっさんに愚痴る。……で、そうじゃなかったら――」
きっと愚痴る事はないだろうな。自分はもう大丈夫だと思うんだ。
辛くなったら思い出そうじゃないか。今日、この時を。そうして乗り越えて、耐えて。
「――礼を言うよ。あの時は有り難う…ってね!」
存在感を消していた鞄を手に取り、駆け出した。
「あ、おい、待て!」
来年の七夕、自分はきっとこの男にまた会って、言うだろう。
「じゃあね、おっさん!」
あの時は有り難う。そして、偽善者って言ってごめん。
「待てよ、おい!…ッこんのがきんちょおおおおお!!」
良かったら、自分と……友達になってくれませんか?
祈ろう。来年の七夕に、どうかこの人と友達になれますように。
縋って良いのなら、とことん縋ってやるんだから。
胸ポケットに入れていたお守り、カッターはもう要らない。此処にはもう、新たなお守りが居るから。カッターよりも重くて、温かいものが。
頭上には幾千の光。彼らは何を照らし、何を導くのだろう。
「……ははっ、あのがきんちょ、昔の俺みたいだったなあ。……来年の七夕かあ。ふっ、楽しみだな」
きっと来年の七夕は、2人にとって特別なものになるだろう。今年の七夕よりもずっと、ずっと、大切なものに。
作品名:7月の夜、公園にて。 作家名:桐伐り