世界の彼方のIF
*
「おい、そこのおまえ! 無装備で外を出歩くなんて、死ぬ気か!」
防護服に身を包んだ二人の男が駆け寄ってくる。
「何だ、アンドロイドか。ったく……こんな地獄を素で歩けるのは、こいつらくらいのもんだぜ」
「それにしても無傷すぎやしないか? いくらアンドロイドだって“あれ”を直に喰らえば、ダメージは避けられない」
「確かに。建物の中にいたとしても地上であれば――」
「ワタシは、地下でかくれんぼをしていたのです」
「は? かくれんぼ? 何言ってんだ、こいつ。極秘の地下シェルターを、ロボットごときが知ってるとは思えないし」
「やっぱ、放射能を浴びたせいで回路が毀れちまってんだよ。今は一体でも機械の動力が欲しいくらいなのにさ。こんな旧型のイカレロボットじゃ、屑鉄同然だ。ほっとけ、ほっとけ」
アンドロイドは思考する――ワタシは、上手くかくれすぎたのかもしれない。
***
「ねぇ、何してるの?」
「かくれんぼです」
「じゃあ、あなたが鬼なのね」
「いえ。鬼はマスターで、ワタシがかくれる側なのです」
「うっそぉ。こんな何もない所で、ただ座ってるだけじゃ全然かくれてないじゃない。すぐ見つかっちゃうわ」
「いえ。もう二年も経つのに、まだ見つかっていないのですよ。それで、マスターが見つけやすいようにと、外で待つことにしたのです」
「へぇ、あなたって、かくれるのが上手なのねぇ。じゃあ、次はあたしと、かくれんぼしましょ?」
「ハイ、喜んで。でも、マスターに見つけてもらえるまで待ってもらえますか? マスターも一緒の方が、きっと楽しいですから」
「いいわよ。あ、ヘルメットの呼び出し音が鳴ってる。地下に帰らなくっちゃ――あなたは平気なの? 人間がヘルメットや防護服をつけないで外に出ると、すごく重い病気になるって、ママが言ってたわ」
「ワタシは、アンドロイドなので平気なのです」
「ふぅん。あんどろいどって強いのねぇ」
少女は「またね」と手を振ると、地下へ続く入口の中に消えていった。
マスター、今のワタシには教えてくれる人がいないので、わからないことが増えるばかりです。
ナゼ、突如として地上が荒野になったのか。
ナゼ、人口が半分にまで減ってしまったのか。
ナゼ、あの部屋には女性と子供だけしかいなかったのか。
ナゼ、人間は何も身につけなければ外へ出られなくなったのか。
そして、地球を護りたいと常々口にしていたアナタの仕事は何だったのか。
そのアナタは、この二年、どこで何をしているのか――。
ワタシの方から探しに行ければいいのですが、旧型アンドロイドは主(あるじ)の許可なく“役割”を変更することができません。
ですからマスター、早く見つけてくださいね……。
END