世界の彼方のIF
しかし、そんな感慨とはうらはらに、おれの手は通路脇に設置されてた消火器へと伸びていた。目の前の窓に向かって力いっぱい振り下ろす。
宇宙航行船の部品とは思えないほど、あっけなく壊れた窓ガラス。床に飛び散った大小の破片。何の特殊加工も施されていない代物。どっと流れこんでくるひやりとした外気。苦しくなるどころか、普通に息ができる。地下都市での生活と同じだ。
ガラスの割れる音を聞きつけ走って来るのは、さきほどの作業員たちだろうか。
でも、今のおれに迫っているのは、人だけじゃなかった。国家機密を知ってしまったおれには、おそらくは人生最大にして最悪の危機も――。
窓枠の向こうに拡がる景色は、漆黒の闇と赤い荒野。
そして。
夜の帳を背に鋭利な鎌のごとく光る、新月を終えたばかりの細い三日月だった。
完