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てっしゅう
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「深淵」 最上の愛 第二章

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夜帰る前に絵美は夏海に尋ねたいことがあったので取調室に呼んだ。
「こんな時間に悪いね。聞きたいこと思い出したから呼んだの」
「しゃべることなんかないよ」
「黙秘してもいいけど、聞くだけ聞いて」
「ふん・・・」
「あなたさっきうそをついたわね?」
「何んのやろ?」
「坂井弁護士と恋人同士って言うことよ」
「ホンマやもん・・・なに言うてるねん!」
「私も女よ。あなたの態度や目線で解るの。ごまかさないで!」
「そんなにぎょうさん男知ってはるの?警視さん?ふふふ・・・隅におけないやんか」
「刑事の目よ。なめたらあかんで!」
「怖いなあ・・・いつから大阪弁言うようになったんや」
「坂井弁護士だけど、さっき聞いたら若い頃事故で怪我して足に傷が残っているって言ってた。体の関係があるのならどっちの足かぐらい知ってるでしょ?答えて」
「・・・そんなんいちいち見てへんから解らんわ」
「大きな傷なのよ。見せてもらったけど。解らないって言うことは絶対にない。もし知らないなら、そういう関係じゃないって言うことよね?」

これは誘導尋問だった。

夏海は迷った。どちらの足に傷が残っているのか聞いていなかったからである。当たり前だ、逮捕された日に初めて会ったばかりで、恋人同士と言うことにしようと打ち合わせしていたのだから。

「見てないから・・・知らんわ。そんな事別にええやん。女は目を瞑っているから見えへんし、あんたは目を開いてするんか?」
「そう・・・知らないのね。やっぱり関係がなかったってことを証明したね。すぐに坂井弁護士を呼んで拘留するわ。徹底的に調べるからそのつもりで居なさいね!」
「・・・警視さん、辞めて下さい。そんなことしたら・・・殺されるから」
「誰に殺されるの?坂井にか?」
「違う・・・あの人に」
「あの人って誰なの?」
「それは言えません。けど、坂井さんは事件とは関係ない人です」
「じゃあ、誰が関係あるの?」
「・・・籾山」
「やっぱり・・・どこに居るの?」
「知りません」
「何か手がかりになるようなこと知らないの?」
「一樹会の隠れ屋があると聞きました。そこに居るかも知れません」
「どこ?」
「知りません。聞いた話しですから」
「本当なのね?」
「はい、本当に知りません」
「隠れ屋か・・・店かなんかじゃないの?心当たりは?」
「店?・・・風俗じゃなくてですか?」
「そう、パチンコ店とか喫茶店とか雀荘とかよ」
「解りません・・・」

夏海の言った「あの人」は聞き出せなかったが、籾山の隠れている場所が解っただけでも収穫だった。翌日の報告会で絵美はみんなの前で聞いた事実を話した。
「おう〜」と言う声がして、絵美の実力が知らされた瞬間でもあった。

報告会の最後に絵美は籾山の逮捕に集中するよう総動員体制を指令した。事前に警視監の本部長に人数を貸してくれるように頼んでいたから、刑事部以外からも応援を得て捜査を開始した。

「警視正、いよいよですね。籾山はきっと見つけますから任せてください」森岡は本格的な捜査を前に興奮した気持ちで絵美にそう言った。
「頼りにしていていいのかしら?」
「もちろんです。警部とは最強のコンビですから」
「最強?そうだったの・・・知らなかったわ」
「警部!フォローお願いします」
「せやな・・・お前が配属されてからずっと一緒に仕事してきたからな。ええコンビかも知れへんわ」

「警部、お願いがあります。夏海も真奈美も拘留中に禁断症状が出るでしょうから、医務室にその旨報告してやって下さい」
「気が付きませんでした。そうします。もうそろそろ出始める頃やろうか、どうや森岡?」
「どのぐらい頻繁に打ってるのか解りませんけど、まだ我慢できるんとちゃいますか・・・あと2〜3日でしょうね」
「そうか、そない言うとくわ」

「夏海に薬見せて、吐かせましょうか?」
「それは出来ません」
「絶好のチャンスやと思いますけど・・・内緒でやれませんか?」
「警部、捜査は公明正大にやらなければいけません。姑息な手を使って聞き出した証言で捜査ミスをしたらどうなると思いますか?」
「はい、申し訳ありません」
「いいのよ、私が居る間はそうさせて・・・」
「刑事が正義を守らないで市民を守ることなんて出来ませんでしたよね・・・先輩によう言われていたこと忘れてしまいましたわ」
「気を取り直して、あなたたちも開始して頂戴!」
「はい、森岡ともう一度一樹会の事務所と店聞き込みしますわ」

一人会議室に残った絵美はこれからの捜査のやり方を考えていた。籾山の居場所を突き止める方法を考えていた。一つ思い当たることがあった。自分が投げ飛ばしたあの男を探し出せば、籾山の居場所が解るかも知れないことに気付いた。


どうしたらあの男を探し出せるか、絵美は考えた。風貌は覚えているから似顔絵を張り出して、市民の協力を頼みにするか、繁華街を警邏して根気よく探し出すか迷っていた。二人がたむろしていたのは梅田の地下街だったから、曽根崎署に頼んで徹底的に聞き込みさせるか、自分たちが出向いて捜査するかのどちらかだと考えた。制服警官を見ると警戒されるから、無警戒の女性警官に協力をしてもらおうと思いついた。総務課に行って、朋子を呼び出した。

「上村巡査長、お願いがあります。これは危険を伴う任務なので命令ではありません。あくまでお願いです。そのことを頭に入れて聞いてください」
「はい、警視正」襟を正して敬礼してそう答えた。
目の前に立っている絵美は署内でもトップの人間だ。少し年上の上司といった感覚は職場にはなかった。雲の上の存在に思える朋子だった。

「私と一緒に繁華街の警邏をして欲しいの。梅田周辺よ。私服で、いわばおとり捜査のようなことをするから絡まれたり、脅されたり、レイプされそうになったりするけど大丈夫かしら?」
「警視正とご一緒に仕事が出来るなんて夢のようです。がんばりますのでやらせて下さい」
「そう、ありがとう。あなたを選んだのは、一番ここでは可愛いからよ。他の女性官には言わないでよ」
「本当ですか?光栄です。警視正の足元にも及びませんがお役に立ちたいと思っています」
「もっと普通の言葉で話していいのよ。そうしないと捜査中に怪しまれるから・・・姉妹ということにしましょう。お姉さんと呼んで頂戴。私は朋子って呼ぶから」
「了解しました。お姉さん・・・ですね」
「そうよ、親しく話しするようにしてね。暗くなったら出かけるから準備して。今日の私服はスカート?パンツ?」
「パンツです」
「ならOKよ。あなた少しは柔道とかの心得はあるの?」
「訓練のときに教えた頂いた程度です」
「そう・・・銃は持たないからそのつもりで」
「はい。警視正、捜査の目的を教えて頂けませんか?」
「そうだったわね。あの時私が投げ飛ばした男を捜すの。顔を覚えている?」
「はっきりとは覚えていませんが、格好はわかります。体格とか年齢とかは記憶していますから」
「ならいいわ。その男から重要参考人の籾山の居場所を聞きだすことが目的よ」
「了解しました」

本部長に事情を説明してしばらくの間朋子を捜査に加えることを許してもらった。