「深淵」 最上の愛 第二章
「深淵」 最上の愛 第二章
翌日の午前11時に約束どおり坂井弁護士は府警にやってきた。
「坂井といいます。弁護士です。早川警視正に呼ばれて来ました」
「ご案内させていただきます」受付から連絡をもらった事務官の上村が取り調べ室のある部屋へと案内した。
「お姉さんみたいな綺麗な人も警察には居てはるんやね」そうエレベーターの中で言われたが、返事はしなかった。
「上村巡査長です。お連れしました。入ります」
「ご苦労様。お待ちしていました。どうぞ中にお入りください」
絵美の案内で、椅子に座った坂井は、一枚の写真をカバンから取り出してテーブルの上に置いた。
「この人が探している籾山という男ですか?」
森岡が覗き込んだ。
「警視正、こいつですよ。あの時謝った奴」
「そのようね」
「疑いは何ですか?」
「坂井さん、まずお伺いしたいことがあります」
「どうぞ」
「何故あの時真木夏海の部屋に居られたのですか?」
「それ答えんといけませんか?」
「出来ればお答えして下さい。本人から何か弁護を頼まれたのですか?」
「違いますよ。私は弁護士ですが独身です。違うことで誘われた・・・って言ったら信じてくれますか?」
「違うこと?・・・」
「早川さんは、自分よりずっと年上の男性は恋愛の対象にはしやはりませんか?」
「そんなこと関係あるの?」
「夏海は私の恋人です。逢いに行ってたらおかしいですか?」
森岡が怒鳴った。
「うそをつくな!夏海は籾山が慕っとる兄貴の女やぞ。手なんか出したら、弁護士でもえらいことになるんちゃうんか?」
「知ってるような口ぶりやな。けどお兄ちゃんには聞いてへんで」
「なに!こいつめ・・・」
「止めなさい!森岡くん、おとなしく出来ないなら退室しなさい」
「すみません・・・」
「ちゃんと答えて欲しい。疑わしいことがあると拘留請求させてもらいますからそのつもりで」
「警視正は賢いなあ・・・若いし、超美人やし、参ったなあ。せやけど、答えはさっき言ったように恋人やねん。聞いてみ?夏海に」
絵美の指示で及川が夏海を連れてきた。
夏海が部屋に入ったときに絵美は及川に耳打ちした。それは坂井弁護士の素性を調べて欲しいということであった。
「真木夏海、座りなさい。これから尋ねることに正直に答えて頂戴。いいわね」
「言うことなんかありませんよ。シャブ打った事以外に聞かれても知らんし」
「まだ何も言ってないよ。まず、昨日逮捕したときに部屋に居た目の前に居る男性は誰ですか?」
「坂井弁護士よ」
「坂井弁護士とはどういう関係ですか?」
「言うんですか?」
「言いなさい」
「恋人です」
「いつごろからの付き合いですか?」
「去年かな。お店に来てくれて仲良くなった」
「坂井弁護士はあなたが麻薬中毒だと言うことを知っていたの?付き合うときから?」
「知らんかったと思うわ。男と女の関係になってから教えたから」
「坂井さん、どうですか?間違いありませんか?」
「言う通りや」
「あなたと坂井弁護士は恋人同士と言うことですね?」
「そうです・・・」
「確認しますよ。間違いなく真木夏海と坂井弁護士は個人的な恋愛関係にあったということですね?」
「はい、間違いありません」
「では、籾山の居場所は知らないということですか?」
「籾山って言う男も知りませんから」
「今言ったことが後の調べでうそだったら、重大な偽証になるから覚えていて頂戴ね。調書にサインしてもらいますから、間違いですは通りませんよ」
「・・・解ってるよ、そんなこと」
「夏海、兄貴に知れたら・・・やばいんちゃうか?ええのか」
「何言うねん・・・兄貴って誰やねん?がせねた掴まされたんとちゃうか、あの女に」
「がせねた?真奈美がか・・・お前なんかよりまじめな女やぞ」
「あんた、アホやね。うちらみたいな女はね、その場で上手くうそをつくように出来てるねん。純情や更正するなんていうことはあらへんで。よう覚えとき・・・お兄さん」
「なんやと!生意気な奴やなあ・・・今日は我慢するけど、今度言うたら承知せいへんからな」
及川が戻ってきた。
「警視正、調べました。これですわ」
書類を手渡した。
坂井は調べによると兵庫県警の要注意人物に指定されていた。暴力団がらみの事件で弁護を引き受けその実績から裏で山中組と取引していると噂されている人物でもあった。42歳独身、出身は神戸市長田区。震災の前の年に弁護士になった男だった。
「今日の取調べはこれで終了します。坂井弁護士、ありがとうございました。真木夏海は刑事告発します。弁護引き受けるんですよね?」
「そのつもりだ。夏海、心配するな。必ず助けるから」
「坂井先生・・・お願いします」
「警部、真木夏海を連れて行って」
「はい、解りました。来い!」
「竹下真奈美を連れてきて、森岡くん」
「はい、今すぐ」
留置部屋に向かう途中まで坂井は付き添っていた。何も言わなかったが、明らかに目で何か合図を送っていた。
真奈美が部屋に連れて来られた。
「ちょっと聞きたいことがあるの。いいかしら?」
「まだお話があるんですか?」
「夏海のことよ。あなたの事知らないって言ってたけど本当なの?」
「直接話した事は無いけど、一樹会の集まりのときに呼ばれたことがあるから、顔は知っていると思うんやけど・・・なんで誰?って聞いたんか知らんわ」
「そうか・・・夏海は何か隠しているようね。多分坂井とも恋人同士じゃない」
「あの男が恋人?おかしいで。兄貴って呼ばれている男は30代前半らしいから合わへんわ」
「本当に30代前半なの?誰から聞いたの?」
「うちらの仲間が夏海と居るところを見たらしい。確認したわけやないから絶対とは言えへんけど・・・そう聞いたことがあるわ」
「いい情報だわ・・・調べてみる価値がありそう。夏海は更正なんか出来ないと言っていたけど、あなたなら出来るわ。楽しみにしているから」
「おおきに・・・絶対にやって見せるから」
絵美は及川を呼んで兵庫県警の担当に山中組の組員リストを見せてもらって、適応する組員を調べるように命令した。
「警部、どう候補者何人ぐらいいた?」
「そのことですが、さっき事務所に電話して聞いてみたんですけど、ぎょうさん居るからいちいち答えられへんって言われましたわ」
「そうですか・・・組員って解っているだけで何人ぐらいいるの?」
「それは森岡の方が詳しいですわ」
「そうね、じゃあ聞いてみる。ありがとう」
兵庫県警が確認している構成員の数は神戸を中心にしている山中組が50人前後、準構成員を含めると100人は超えると言うことだった。大阪の北を任されている一樹会は準構成員を含めても20人程度だから、その組織は大きかった。
「森岡くん、じゃあ探し当てるのは大変な作業と言うことになるのね?」
「そうですね。準構成員の下に若いもんが何人か付いてますから・・・全部で300人は超えますね」
「本当!すごいね・・・何かいい方法がないかしら?」
「地道に探すしかないでしょうね。私が入り込みましょか?」
「危険だからいいわ。他に手を考えましょう。明日9時から全体報告会を第一会議室でやるから、遅れないようにしてね」
「はい、了解しました」
翌日の午前11時に約束どおり坂井弁護士は府警にやってきた。
「坂井といいます。弁護士です。早川警視正に呼ばれて来ました」
「ご案内させていただきます」受付から連絡をもらった事務官の上村が取り調べ室のある部屋へと案内した。
「お姉さんみたいな綺麗な人も警察には居てはるんやね」そうエレベーターの中で言われたが、返事はしなかった。
「上村巡査長です。お連れしました。入ります」
「ご苦労様。お待ちしていました。どうぞ中にお入りください」
絵美の案内で、椅子に座った坂井は、一枚の写真をカバンから取り出してテーブルの上に置いた。
「この人が探している籾山という男ですか?」
森岡が覗き込んだ。
「警視正、こいつですよ。あの時謝った奴」
「そのようね」
「疑いは何ですか?」
「坂井さん、まずお伺いしたいことがあります」
「どうぞ」
「何故あの時真木夏海の部屋に居られたのですか?」
「それ答えんといけませんか?」
「出来ればお答えして下さい。本人から何か弁護を頼まれたのですか?」
「違いますよ。私は弁護士ですが独身です。違うことで誘われた・・・って言ったら信じてくれますか?」
「違うこと?・・・」
「早川さんは、自分よりずっと年上の男性は恋愛の対象にはしやはりませんか?」
「そんなこと関係あるの?」
「夏海は私の恋人です。逢いに行ってたらおかしいですか?」
森岡が怒鳴った。
「うそをつくな!夏海は籾山が慕っとる兄貴の女やぞ。手なんか出したら、弁護士でもえらいことになるんちゃうんか?」
「知ってるような口ぶりやな。けどお兄ちゃんには聞いてへんで」
「なに!こいつめ・・・」
「止めなさい!森岡くん、おとなしく出来ないなら退室しなさい」
「すみません・・・」
「ちゃんと答えて欲しい。疑わしいことがあると拘留請求させてもらいますからそのつもりで」
「警視正は賢いなあ・・・若いし、超美人やし、参ったなあ。せやけど、答えはさっき言ったように恋人やねん。聞いてみ?夏海に」
絵美の指示で及川が夏海を連れてきた。
夏海が部屋に入ったときに絵美は及川に耳打ちした。それは坂井弁護士の素性を調べて欲しいということであった。
「真木夏海、座りなさい。これから尋ねることに正直に答えて頂戴。いいわね」
「言うことなんかありませんよ。シャブ打った事以外に聞かれても知らんし」
「まだ何も言ってないよ。まず、昨日逮捕したときに部屋に居た目の前に居る男性は誰ですか?」
「坂井弁護士よ」
「坂井弁護士とはどういう関係ですか?」
「言うんですか?」
「言いなさい」
「恋人です」
「いつごろからの付き合いですか?」
「去年かな。お店に来てくれて仲良くなった」
「坂井弁護士はあなたが麻薬中毒だと言うことを知っていたの?付き合うときから?」
「知らんかったと思うわ。男と女の関係になってから教えたから」
「坂井さん、どうですか?間違いありませんか?」
「言う通りや」
「あなたと坂井弁護士は恋人同士と言うことですね?」
「そうです・・・」
「確認しますよ。間違いなく真木夏海と坂井弁護士は個人的な恋愛関係にあったということですね?」
「はい、間違いありません」
「では、籾山の居場所は知らないということですか?」
「籾山って言う男も知りませんから」
「今言ったことが後の調べでうそだったら、重大な偽証になるから覚えていて頂戴ね。調書にサインしてもらいますから、間違いですは通りませんよ」
「・・・解ってるよ、そんなこと」
「夏海、兄貴に知れたら・・・やばいんちゃうか?ええのか」
「何言うねん・・・兄貴って誰やねん?がせねた掴まされたんとちゃうか、あの女に」
「がせねた?真奈美がか・・・お前なんかよりまじめな女やぞ」
「あんた、アホやね。うちらみたいな女はね、その場で上手くうそをつくように出来てるねん。純情や更正するなんていうことはあらへんで。よう覚えとき・・・お兄さん」
「なんやと!生意気な奴やなあ・・・今日は我慢するけど、今度言うたら承知せいへんからな」
及川が戻ってきた。
「警視正、調べました。これですわ」
書類を手渡した。
坂井は調べによると兵庫県警の要注意人物に指定されていた。暴力団がらみの事件で弁護を引き受けその実績から裏で山中組と取引していると噂されている人物でもあった。42歳独身、出身は神戸市長田区。震災の前の年に弁護士になった男だった。
「今日の取調べはこれで終了します。坂井弁護士、ありがとうございました。真木夏海は刑事告発します。弁護引き受けるんですよね?」
「そのつもりだ。夏海、心配するな。必ず助けるから」
「坂井先生・・・お願いします」
「警部、真木夏海を連れて行って」
「はい、解りました。来い!」
「竹下真奈美を連れてきて、森岡くん」
「はい、今すぐ」
留置部屋に向かう途中まで坂井は付き添っていた。何も言わなかったが、明らかに目で何か合図を送っていた。
真奈美が部屋に連れて来られた。
「ちょっと聞きたいことがあるの。いいかしら?」
「まだお話があるんですか?」
「夏海のことよ。あなたの事知らないって言ってたけど本当なの?」
「直接話した事は無いけど、一樹会の集まりのときに呼ばれたことがあるから、顔は知っていると思うんやけど・・・なんで誰?って聞いたんか知らんわ」
「そうか・・・夏海は何か隠しているようね。多分坂井とも恋人同士じゃない」
「あの男が恋人?おかしいで。兄貴って呼ばれている男は30代前半らしいから合わへんわ」
「本当に30代前半なの?誰から聞いたの?」
「うちらの仲間が夏海と居るところを見たらしい。確認したわけやないから絶対とは言えへんけど・・・そう聞いたことがあるわ」
「いい情報だわ・・・調べてみる価値がありそう。夏海は更正なんか出来ないと言っていたけど、あなたなら出来るわ。楽しみにしているから」
「おおきに・・・絶対にやって見せるから」
絵美は及川を呼んで兵庫県警の担当に山中組の組員リストを見せてもらって、適応する組員を調べるように命令した。
「警部、どう候補者何人ぐらいいた?」
「そのことですが、さっき事務所に電話して聞いてみたんですけど、ぎょうさん居るからいちいち答えられへんって言われましたわ」
「そうですか・・・組員って解っているだけで何人ぐらいいるの?」
「それは森岡の方が詳しいですわ」
「そうね、じゃあ聞いてみる。ありがとう」
兵庫県警が確認している構成員の数は神戸を中心にしている山中組が50人前後、準構成員を含めると100人は超えると言うことだった。大阪の北を任されている一樹会は準構成員を含めても20人程度だから、その組織は大きかった。
「森岡くん、じゃあ探し当てるのは大変な作業と言うことになるのね?」
「そうですね。準構成員の下に若いもんが何人か付いてますから・・・全部で300人は超えますね」
「本当!すごいね・・・何かいい方法がないかしら?」
「地道に探すしかないでしょうね。私が入り込みましょか?」
「危険だからいいわ。他に手を考えましょう。明日9時から全体報告会を第一会議室でやるから、遅れないようにしてね」
「はい、了解しました」
作品名:「深淵」 最上の愛 第二章 作家名:てっしゅう