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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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傀儡師紫苑(2)未完成の城

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 彪彦はずれたサングラスを直しながら口元をつり上げた。そして、右肩に止まっていた鴉が右手の先に移動した。
「そうですか、仕方ありませんね。では、世界の均衡を保つために雪夜さんには死んでいただくことになります」
 右手に移動した鴉が変形して彪彦の腕に巻き付き、大きくて黒い鍵爪へと変化した。その鍵爪の形はまるで巨大な鴉のくちばしのようで、人の頭など簡単に鋏めてしまいそうだ。
 相手の魔導具を見て雪夜は妖艶な笑みを浮かべた。
「おもしろい玩具持ってるね。ボクも必殺技見せてあげるよ」
 雪夜はテーブルに置いてあった何かを掴んだ。それはセットメニューに付いて来たおまけである人形であった。
 その人形は象のような、ミジンコのような、そんな感じものに天使の翼が生えたキャラクターだった。
 人形を掴んだ雪夜は高らかに声をあげた。
「トゥーンマジック!」
 雪夜の手から床に放り投げられた人形は膨れ上がっていく。周りの椅子を撥ね退けながら人形は巨大化し、全長二メートルにまでなった。
 人形は長く伸びた鼻を上げて象のような鳴き声をあげた。
 ギャラリーと化している麻那と隼人は口をあんぐりと空けてしまった。
 人形がその長い鼻で彪彦に襲い掛かる。
 黒い鉤爪が人形の身体をあっさりと切り裂き、切り裂かれた人形はシャボン玉のように弾けたと思うと、切り裂かれた状態でもとの人形に戻った。
 雪夜は口に手を当てて大きなあくびをした。
「あらら、もうやられたのか。見た目どおりに弱かったなぁ。じゃあ次はこれ」
 テーブルに置いてあったジュースのふたを雪夜は開けて、中身の床に溢しながら高らかに声をあげた。
「トゥーンマジック!」
 すると黒い液体が増殖しはじめて、生き物のように動き出した。
 液体はうねりながら彪彦に襲い掛かる。今度は液体が相手だ、どうする彪彦!?
「先ほどからこけおどしばかりでつまらないですね」
 襲い掛かって来る黒い液体に向かって彪彦は鉤爪を向けた。
 鉤爪が口を開けたかと思うと、それは唸り声を周りの空気を吸い込みはじめた。
 黒い液体は抵抗するが簡単に鉤爪に吸い込まれ、どこからかゴクンという何かを呑み込む音が聞こえた。その後、誰かがゲップをした。
「さて、次はどうしますか雪夜さん?」
「そうだねぇ〜、逃げるっていうのはどうかな?」
「なるほど、それは名案ですね。それで、どのようにして?」
「こうやってさ!」
 空間が揺れ、雪夜の姿がゆらゆらと霞んでいく。
 麻那と隼人は目の前で起きていた怪現象に魅入られてしまっていて、逃げることを先ほどまで忘れていたが、空間が揺れ、歪み、そして、溶けていくのを目の当たりにして慌てはじめた。
「隼人、逃げないと!」
「わかってるよそんなこと!」
 空間に溶けるように雪夜の姿が消えようとしている。
 彪彦は雪夜を逃がさまいと鉤爪を振るった。
「待ちなさい!」
 鉤爪は雪夜の腕に噛み付いたが、苦痛に顔を歪ませた雪夜は完全に溶けて消えてしまった。
「逃げられましたね」
 先端を地面に向けられた鉤爪からは血が流れ落ちている。
 彪彦はすれたサングラスを直しながら口元をつり上げた。
「いや、逃げられたのではなく、わたくし……たちが別の場所に飛ばされたようですね」
 雪夜が別の空間に逃げたのではなく、彪彦たちが別の空間に閉じ込められたのだ。そう、閉じ込められたのは彪彦だけでなく、麻那と隼人も閉じ込められていた。
 同じ場所に運悪くいたために、麻那と隼人も雪夜の創り出した異世界に閉じ込められてしまったのだ。
 どこからか軽快なリズムの曲が流れて来る。
 辺りを見渡すとジェットコースターや観覧車がある。そう、この場所はまるでテーマパークのような場所だった。

 野々宮沙織は珍しく一人で学校から帰っていた。いつもは仲のよい早見麻衣子と宮下久美といることが多い。
「ひさびさにひとりぃ〜、寂しいなぁ」
 小さな影がとぼとぼと歩いて行く。
 沙織は翔子の部活の後輩で、部活内では撫子に次いでテンションが高い。だが、彼女がテンションを高くすることをできるのは、周りに友達がいればこそだった。今の沙織はテンションが低い。
 他人の輝きをもらって自分を輝かせることしか沙織にはできなかった。
 ひとりで帰っていると特にすることがない。けれど、沙織は家に帰っても特にすることがなかった。
 沙織の両親は共働きで仕事から帰って来るのはいつも夜遅くだった。というより、帰って来ないことの方が当たり前だった。
 家に帰っても特にすることがない沙織は家に帰るのが嫌だった。そのためいつもは仲のいい二人の友達とできる限り一緒にいる。
 肩を落としながら歩く沙織は人の大勢いる場所に行こうと考えた。だが、今日は人のいない静かな場所に行きたい気分だった。
 家に帰ればひとりになれるだろう。しかし、沙織は家でなく、ふと横を立ち寄った公園に入った。
 家はひとりになれるが、外と完全に隔離されたような感覚を沙織は受けてしまう。人がいなくても外にさえいれば、誰かと繋がっているような気分になり、家にいるよりはましな気分に沙織はなれた。
 寒空の下の公園は静かだった。
 沙織は風に揺られていたブランコに座って空を見上げた。そして、いろいろなことを考えた。特に両親のことを考える。
「……嫌い」
 その言葉は両親に対するものだ。沙織は両親のことを悪く思っていた。
 沙織の両親は仲が悪く互いの不倫を認め合っている。だが、別れる気は今のところないらしい。そのため沙織の両親は家に帰って来ないで、不倫相手の家などに泊まり込んでいた。
 どこからか猫の鳴き声が聞こえて来た。
 沙織が足元を見ると、こげ茶色の仔猫が沙織の足に擦り寄っていた。
 仔猫は可愛らしい声で鳴きながら顔を沙織の足に擦り付けている。何かをねだっているのだろうか?
 泣き続ける仔猫を見ていた沙織はバッグの中から今朝コンビニで買ったチキンサンドの残りを取り出した。
「猫ってチキンサンド食べるのかなぁ?」
 沙織はチキンの部分を千切って仔猫に分け与えてみた。すると仔猫はチキンにかぶり付き、首のスナップを利かせながら口の中にチキンを放り込んでいった。
 仔猫は鳴くのを止めて走り去ってしまった。
 沙織は少しショックを受けた。自分に懐いたのかと思ったら、猫はエサをもらったら走り去ってしまったのだから。
 どうしても沙織は仔猫を追いかけずにはいられなかった。
 仔猫だけに視線を向けて走っていた沙織はいつの間にか道路まで出ていて、仔猫が急にアスファルトの地面から持ち上げられた。
 沙織は仔猫が持ち上げれるのに視線を合わせて、そのまま仔猫を抱き上げた少年の顔を見た。
 自分よりも年上の男の子だと沙織は思い、相手の少年も自分よりも年下だと思ったが、沙織がこの辺りでは有名な星稜の制服を着ていたので自分よりも年上なのだと確認できた。
「これ君の猫?」
「ううん」
 少年はそう聞くと仔猫を地面に下ろしてやった。すると仔猫は走り去ってしまった。
 走り去る仔猫を見て沙織は少し寂しい気分になった。
「あ、行っちゃった」
「逃がしちゃダメだった?」
「ううん、別に……あっ!?」