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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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傀儡師紫苑(2)未完成の城

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「これでも性格直そうと努力してるんだから、余計なお世話よ。で、ヒマなんでしょ?」
「はぁ!?」
 直そうと努力していると言った次の言葉は『ヒマなんでしょ?』。隼人は直らないなと確信した。
 唖然とする隼人のことなどお構いなしに麻那はまだ言い続ける。
「ねえ、ヒマでしょ? イヴでいいのイヴで、クリスマス・イヴ!」
「だから、あのね、イヴがヒマじゃないから」
「どうしてヒマじゃないのよ! あたしとデートするより大事な用事があるわけ?」
「デート? そんな約束してないよ」
「……あっ」
 顔を赤くした麻那は隼人の顔がまともに見られなくなり、顔を伏せてしまった。
「もしかして、僕とデートしたかったの?」
「…………」
 何も答えずうつむいたままの麻那。口を滑らせてしまった自分の失態を悔やんでも悔やみきれない。恥ずかしくて、もう隼人の顔を見ることができない。
「麻那、顔上げて」
 隼人が優しく言葉をかけるが、麻那は首を横に振った。
「嫌よ」
「はぁ、いいよ別に、ヒマだよ」
「ほ、ほんと!?」
 満面の笑みを浮かべて顔を上げた麻那に隼人は優しく微笑んだ。
「本当だよ、突然ヒマになっちゃったんだ。だから二人でどこかに出かけよう」
 心の中でガッツポーズを決めた麻那はバッグの中から二枚のチケットを出して見せた。
「このチケット新しくできるテーマパークのフリーパスなんだけど、ちょうど二人分あるのよねぇ」
 あからさまな麻那の行動を見て、鈍感な隼人でもすぐに理解した。
「そこに行きたいってことね。ところで、そのチケットどうしたの?」
「今日たまたま森下先生から貰っちゃったのよ」
 森下先生とは演劇部の顧問である。
「ふ〜ん、あの先生が只で譲ってくれたの?」
「うん、彼氏と別れたから必要なくなったんだって」
「ああ、なるほど」
 今日、学校で麻那が廊下を歩いていると、ケータイで彼氏と別れ話をしている森下麗子先生がいて、突然ケータイを切ってポケットに入っていたチケットを投げ捨てるように麻那にくれたのだ。
 麻那はチケットに書かれている文字を指差して隼人に説明した。
「ほら、ここに書いてあるでしょ? このチケット、ディナー付きなんだよ」
「ディナー? 僕ら中学生なのにディナーはないと思うよ。その日きっとカップルとか周りにすごくいるんじゃないかな?」
「カ、カップル!?」
 この二人はまだ一応付き合っているわけではないので、麻那はカップルという言葉に異常に反応してしまった。そんなところで隼人と一緒に食事をしたら、カップルに間違えられるのではないかと思ったからだ。
 自分でデートを半ば強引に誘っておいて麻那は慌て出した。
「違うわよ、デートじゃないから、ちょっとイヴに二人で遊びに行くだけ、ディナーなんて別にいいの、テーマパークの外に出てからファーストフード店に入って……違うの、違うから!」
「そうだね、二人でちょっと遊びに行くだけだよね」
 こうあっさりと『遊びに行くだけ』と言われると、それはそれでちょっと寂しい気分になる。
「と、とにかく、イヴは予定を空けて置きなさいよ」
「うん、わかったから麻那はチケットなくさないようにね」
「な、なくすわけないでしょ!?」
 まだ少し麻那は取り乱している。
 二人はアーケード街の中に入った。ここを通るのが家への近道なのだ。
 アーケード街にはゲームセンターやファーストフード店があるので、この辺りの学生たちの溜まり場になっている。特に星稜大学付属・中等部・高等部の制服が目に付く。
「まだ、ちょっと早いけど、そこで食べていく?」
 隼人は目の前にあるファーストフード店を見て言った。『W』が目印の極悪なマスコットがいるワルドナルドだ。
 店内に入ったところで隼人は麻那にこんなことを言った。
「今さ、翔子さんと愁斗くんがいたんだけど、声かけるべきだったかな?」
「駄目よ、二人の邪魔したら翔子がキレるわ」
「そうかな?」
「そうよ」
 注文を済ませた二人は店内で食べることにした。この店は二階と地下が客席になっていて、地下は全席禁煙になっている。二人は迷わず地下に行った。
 地下は異様なまでに静かで客が一人しかいなかった。それも少年がひとりしかいなかった。大抵は数人の客がいるのだが、珍しいこともあるのだ。
 ジュースを飲んでいた少年と麻那の目が合った。そして、少年はこんなことを言った。
「可笑しいな、誰も入れないはずなのに?」
 その口調は見た目に似合わず大人びていて、少し異様な感じがした。
 麻那と隼人は自然と少年と離れた席に座った。すると、少年がわざわざ二人のもとへ歩いて来た。いったい何をしに来たのか?
「君たちさ、どうやって入ったの?」
 この質問に麻那と隼人は不思議な顔をしてしまった。だが、隼人は律儀に答えを返してあげた。
「階段を下りて来たんだけど……?」
 答えるまでもない答えだ。しかし、少年の聞きたいことはそういうことではない。
「この地下にはボク以外の人間は入れないはずなんだよ」
 いまいち言っていることがわからない。
 麻那は頬杖をつきながら少年に聞いた。
「つまり、貸し切りってこと? でも、そんなこと聞いてないわよ」
「う〜ん、貸し切りとは違うかな。でも、普通の人間は地下に来られないはずなんだ。普通の人は自然と上に行くように細工がしてあったんだけど……変だなぁ。まあ、いいや、ごめんね二人とも、お邪魔しました」
 少年はぺこりと頭を下げて自分の席に戻って行った。
 麻那と隼人は顔を見合わせて不思議な顔をした。
「なに今の子?」
 麻那に小声で聞かれたが、隼人はそんなことを聞かれても困ってしまう。
「さあ?」
 時間が過ぎていく。
 二人が食事をはじめてしばらく経っても地下には誰も下りて来なかった。このことに不信感を覚える麻那。
「何かちょっと変じゃない?」
「そうかな、静かでいいと思うけ――」
 突然、硝子が砕ける音が鳴り響き、隼人の言葉を掻き消した。だが、何かが壊れたようには見えない。見えないのは当然だ――壊れたのは見えない壁なのだから。
 少年が急に立ち上がり身構えた。自分が造った壁が壊す者が現れるとは思ってもみなかったのだ。
 ため息交じりの声で少年は呟いた。
「可笑しいなぁ、どうしてこうもさっきから可笑しなことが起きるのかな?」
 麻那と隼人は食べる手を止めて地下に進入して来た人物を魅入ってしまった。
 鴉が肩に止まっている男――影山彪彦だった。
「一般人の方もお食事中でしたか、これは申し訳ないことをしてしまった。我々には構わないでお食事を続けてください」
 それは無理な話だ。どうしても彪彦に目を奪われてしまう。
 彪彦は少年に軽い会釈をした。
「はじめまして、とある魔導結社からあなたをスカウトに参りました、影山彪彦という者です。よろしければあなたの名前をお聞かせ願いたい」
「ボクの名前は芳賀雪夜[ハガユキヤ]。でも、ボクの名前も知らないでスカウトに来るなんて変わっているね」
「名前は確認のために聞いたまでです。では、話を戻しまして、スカウトの件について返事をいただきたいのですが?」
「ヤダね、ボクは何でもボクがトップじゃないと気に食わないから」