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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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傀儡師紫苑(2)未完成の城

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 にこやかだった麻衣子と久美の表情が急に冷たくなった。
「出るのでしたら勝手に翔子先輩だけで出てください」
 冷たい口調で麻衣子が言い、それに続いて久美も冷たい口調で言った。
「私たち、ずっとこの世界で遊びながら暮らすって決めたんです」
 二人はこの世界にすでに魅了されていたのだ。今の状態では自らの意思でこの世界を出たいとも思わない。
 翔子は心配そうな表情で二人を見つめた。
「二人とも帰ろうよ」
 麻衣子と久美は翔子の言葉を無視して歩き出してしまった。それを追おうとした翔子の腕を撫子が掴んだ。
「追いかけても無駄だよ」
「何で!?」
「今の彼女たちはこの世界に魅了されてる。何を言っても無駄にゃんだよ。だから、まずはこの世界のもとをどうにかしにゃきゃいけにゃい」
「……うん、わかった」
 そう口では言いながらも翔子は去って行ってしまった二人の背中を見つめていた。近くにいるのに何もできない歯がゆさを翔子は感じてしまった。
「翔子、いつもでも見てにゃいで行くよ!」
 撫子は強引に翔子の腕を引っ張って歩き出した。
 突然、翔子は愁斗のことを想ってしまった。自分が困った時、頼りにしているひとのことを思い出したのだ。
「愁斗くん、平気かな……そうだよ、勝手に撫子について来ちゃったけど、愁斗くん心配してるかも」
「愁斗クンのことだったら問題にゃいって。心配はしてるかもしれにゃいけど、他は大丈夫、翔子の彼氏にゃんだから」
「その彼氏って言い方、何かいいね。そうだよね、愁斗くんって私の彼氏なんだよね」
 こんな状況で翔子はラヴラヴな気持ちに浸った。愁斗のことを想うだけで勇気が湧いて来る。
 想いを馳せて上の空になっている翔子は見て撫子は少し羨ましくなった。
「彼氏彼氏彼氏彼氏彼氏彼氏彼氏彼氏、愁斗クンは翔子の彼氏」
「それってからかってるの?」
「もちろんそうだよ。にゃんか嫉妬」
 撫子は顔を膨らませてそっぽを向いた。
「どうして嫉妬何てするのよ」
「だって、だってアタシの翔子ちゃんが愁斗クンに盗られちゃったんだもん」
「……あっそ」
 翔子は撫子の言葉を軽く受け流して早歩きをした。
「待ってよ翔子!」
 撫子は慌てて翔子を追いかけるが、翔子は背中を向けたまま怒っている。
「撫子さ、前も私のこと襲いたいとか言ったよね? やっぱりそういう趣味あるわけ?」
「それはどーかにゃ〜」
「絶交」
 翔子は走り出したが、撫子はすぐに追いついてしまった。
「絶交にゃんて言わにゃいでよ。撫子、涙が出ちゃう、ウルウル」
 口調はわざとらしいが撫子は本気で号泣していた。
「もぉ、泣くのってズルイよ。許すから、泣かないで」
「爆マジ?」
「うんうん、爆マジ」
 すぐに撫子は泣くのを止めて満面の笑みになった。
「じゃあ、翔子のこと襲ってもいい?」
「それしたら絶交だからね」
「にゃんで〜、スキンシップだよぉ〜」
「とにかく絶交」
「う〜、しかたにゃいか……」
 二人が自分たちの置かれている状況を忘れて会話をしていると、ついに城の目の前まで来てしまった。
「にゃんかスゴイ力を感じるんだけど……にゃにかが可笑しい」
 撫子が城から感じる力は内から響いて来る力ではなかった。本来エネルギーソースは内にあるものなのだが、この城はまるで虚勢を張っているようだった。
 城の入り口は真っ暗の闇で中が見えない。
「翔子、行くよ」
 撫子が城の中に飛び込んで行ってすぐに翔子も中に入った。
 二人は驚きの表情を浮かべてしまった。彪彦の時と全く同じで中身が空っぽだったのだ。ただ、今度は中に人がいた。
「センパイこんにちわぁ!」
「沙織さんの知り合いか」
 中にいたのは沙織と雪夜であった。空っぽの中に二人がぽつんと立っていたのだ。
 この場にいる四人のほかにも彼がいた。
「撫子さん、可及的速やかにわたくしを救出していただきたい」
「うっそ〜、爆マジ!? 彪彦さん捕まっちゃったのってゆうか、その格好にゃに?」
「その件に関してはお話できません。ここはひとつ相手をうまく丸め込んで示談で解決していただきたい」
 鳥かごに入れられたブリキの鴉としゃべる撫子の服を引っ張りながら翔子は聞いた。
「オモチャと知り合いなの?」
「そにゃとこ」
 沙織は小走りで翔子と撫子に近づくと、二人の腕に手を回して腕組みをした。
「センパイ二人もこれから沙織と遊びに行こう!」
 翔子と撫子は同時に沙織の腕を外した。
「私たち遊びに来たんじゃないの」
「沙織と一緒に遊びましょうよぉ〜」
 雪夜は翔子たちに駄々をこねる沙織の手を取って目の前にいる二人に話しかけた。
「お二人はここに遊びに来たんですか? それとも他の理由でこの城に?」
 この世界に魅了された者たちは自らの意思ではこの城には入れないはずだった。
「アタシはとりあえず、そこのカゴに入った知り合いを助けることと、アナタとこの世界の処理」
「私はその付き添いです」
 雪夜は二人の話を聞いて納得した。
「やはり、ボクの敵か」
 沙織も撫子の言葉を聞いて怒り出した。
「雪夜くんとこの世界の処理ってどういうことですか撫子センパイ!」
「にゃんつーか、とりあえずこの世界は壊さにゃきゃいけにゃいかにゃ〜」
 この世界が壊される。そこ言葉を聞いた瞬間、沙織の内に秘めたチカラが目覚めた。
「センパイ嫌いですぅ、この世界は沙織の世界だもん!」
 大泣きをはじめた沙織の身体を中心に爆風が巻き起こった。近くにいた三人の身体が大きく吹き飛ばされた。
 地面に尻から落ちた撫子はお尻を擦りながら起き上がった。
「にゃんで沙織ちゃんが!?」
 魔導の力を沙織が持っていたとは撫子にとって完全な誤算であった。そんな力を内に秘めていたとは今まで気がつきもしなかった。
 雪夜は哀しい顔をしていた。
「誰も邪魔さえしなければ、いつまでも楽しく暮らせたのに……。世界が崩れる……」
 大地震にでも見舞われたように世界が激しく揺れた。
 撫子の頭上に石の塊が落下して来た。
「にゃ〜っ!?」
 揺れで自由に身動きができなかったが、撫子は辛うじて石を避けた。石は地面に激突して砕け飛んだ。このような現象が城のあちらこちらで起こっている。
 沙織が激しく泣くとともに世界が振動する。沙織が肩を震わせるたびに世界が上下に揺れる。
 揺れは激しさを増していき、立つことはおろか、座っていても身体が地面を滑る。
 翔子は自分の方に転がって来る鳥かごをうまくキャッチすることに成功した。
「大丈夫ですか?」
 翔子の問いに、鳥かごの中に入っている彪彦は目を回しながらも、しっかりとした口調で答えた。
「ええ、助けていただいてありがとうございます」
「あの、もしかして私たちどこかで会ってませんか?」
 翔子の知り合いにブリキの人形などいなかったが、どこかで翔子は会っているような気がした。
「ええ、アーケード街で愁斗くんとあなたが一緒にいるところでお会いしましたよ。あの時は人間の姿でしたがね」
「ああっ、あの時の!?」
 また世界が激しく揺れて翔子は掴んでいたはずの鳥かごを大きく投げ飛ばしてしまった。