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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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傀儡師紫苑(2)未完成の城

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 撫子は完全に力尽きて目を閉じた。もう、どうでもよくなってしまったのだ。
 しばらくして、パトカーの音が聞こえて来て撫子は飛び起きた。
 道の先からおもちゃのパトカーを大きくしたような車が走って来る。
「アタシだよね!?」
 撫子は逃げた。パトカーはその撫子を追って来る。
 偽物のパトカーとはいえ、時速は八〇キロメートルを越えていた。だが、撫子の全速力もそれに負けず劣らずで、パトカーとの距離は広がりも縮みもしなかった。
 撫子は電柱によじ登った。次の瞬間、パトカーが電柱に衝突して電柱を揺らした。
「爆マジですか!?」
 壊れたパトカーからおもちゃのブロックに付属していそうな警官の人形が二体出て来た。それも普通の人間サイズだ。
 警官は拳銃を撫子に向けた。
「まっさかねぇ〜」
 まさかではなかった。拳銃が火を噴いたのだ。
 さすがの撫子でも銃弾は避けきれず、左肩を銃弾が貫通した。
 左肩から血を出しながら撫子は地面に落下し、両手を付きながらどうにか着地した。
 空かさず銃弾が撫子に浴びせられる。
 アクロバティックな動きで撫子は銃弾を交わしつつ、バク転をしながら塀を越えた。
 庭に逃げ込んだ撫子を追って警官がすぐに駆けつけて来る。
「しつこいオトコは嫌われるよぉ〜ん!」
 撫子は軽やかに飛び上がり家の屋根に上って、足を止めることなく屋根から屋根へとぴょんぴょん飛び移って行く。
 どうやら警官は追って来れないようだ。だが、安心するのはまだ早かった。
 撫子の耳がぴくぴくと動き、上空を飛んで来るものを感知して、それが飛んで方向を来る勢いよく振り向いた。
「爆マジですか奥さん!」
 おもちゃのヘリコプターが撫子に向かって来ていた。もちろんサイズは本物と変わらない。
 重装備のヘリコプターからロケットランチャーが発射された。
 シューンと風を切る音を立てながらロケットランチャーが撫子に向かって来る。撫子は叫ぼうと思ったが、そんなことをする暇などなく、急いで地面にダイブして足を止めることなく逃げた。
 爆音と爆風が撫子を背中から吹っ飛ばした。
「にゃ〜っ!」
 地面に放り出された撫子の背中は少し焦げていた。
 撫子は息つく暇もなく立ち上がって逃げた。
 ヘリコプターからは機関銃が発射され、地面に穴を開ける。撫子だから避けられるのであって、普通の人間に避けることは不可能だ。
 道路を走る撫子の背中からは銃弾が追って来る。
 突然、銃声が止んだかと思うと、撫子は別の場所にいた。今までいた世界の境目を抜けたのだ。
 地面は発泡スチロールでできていて土色に塗られている。周りには廃墟と化したビルがあり、煙が立ち昇っている場所もある。
 巨大な影が撫子を呑み込んだ。それは人型をしているが人の巨人の影ではない。
 撫子が後ろを振り向くとそこには巨大ロボットいた。頭頂高約一九メートル――撫子の身長の約一三倍だ。
「爆裂サイテー! もう撫子ちゃんは脳天爆発でいっちょやってみっか!」
 ロボットは撫子を踏み潰そうとしたが、撫子はそれよりも素早く動いてロボットの足をよじ登った。
 撫子は鋭い爪でロボットの足を引っ掻いた。すると、ロボットの中身が見えたのだが、中身は空っぽであった。まるでプラモデルの内部のようであった。
 ロボットは撫子を捕まえようと手を伸ばしてくるが、撫子はロボットの身体中を移動して魔の手から逃れた。だが、ついに撫子は捕まった。
 大きなロボットの手に摘まみ上げられた撫子はそのまま地面に放り投げられた。
 空中で回転しながら撫子は地面に華麗に着地した。けれども、足が発泡スチロールの地面に埋もれてはまった。
「うっ……抜けない」
 足が抜けなくて悶える撫子の頭上に、ソードと思われる巨大なプラスチックの棒が振り下ろされようとしていた。
「にゃーっ!」
 足がどうにか抜けて、そのまま撫子は横に転がって逃げた。すると、撫子のいた場所にソードが振り下ろされて、発泡スチロールがへこんだ。
「うん、逃げよう」
 撫子は全速力で駆けた。後ろからソードを振り回しながら追って来るロボットになど目もくれずに走る。
 この世界の境を撫子は飛び越えた。
 気がつくと撫子は子供部屋にいた。どうやらやっと目的の場所に辿り着いたようだ。
 この子供部屋にはブロックで作られた町やプラモデルのジオラマセットが置いてあった。それを見た撫子はため息を落とした。
「こんにゃとこで大冒険してたのか……バカらしぃ」
 撫子が先ほどまでいた場所は子供のおもちゃの中であったのだ。
 机の上に置かれているパソコンに撫子は注目した。
 パソコンの前に座った撫子はパソコンの電源を入れようと手を伸ばした先にあるものを見つけた。それは開かれた雑誌に付けられた赤丸印であった。
 雑誌を手に取った撫子は印の付けられた記事に注目した。
「にゃるほどねぇ〜」
 撫子はポケットに手を突っ込んで麻那からもらったチケットをまじまじと見た。印の付けられた記事に書かれている内容は、撫子が今手に持っているチケットのテーマパークのものだった。
 雑誌を置いた撫子は改めてパソコンを起動させた。
 まず撫子はデスクトップ画面に何かがないか調べた。するとWebページのショートカットアイコンがあったのでクリックしてみた。すると、先ほどのテーマパークのホームページにアクセスされたではないか。
「にゃ〜んか、気ににゃるにゃ〜」
 撫子の鋭い勘がこのテーマパークに何かがあると訴えている。
 テーマパークのホームページに一通り目を通した撫子は、他にも何かがないかパソコンの中を調べはじめた。
「にゃ〜んとヒット!」
 撫子は日記を見つけた。この中には何か重要は手がかりがある可能性が高い。
 日記を開こうとしたのだがパスワードを要求されてしまった。
「うっそ〜、爆マジ!? そんにゃの聞いてにゃいよぉ」
 と言いながらも撫子の指は異常な速さで動き、パスワードを入力することなく簡単に日記を開いてしまった。
 日記は数年前から書かれているらしく、撫子は最新のものから読んでいくことにした。
 撫子の表情が曇る。
 日記の内容はネガティブな思考をだらだらと書き綴ったものが多く、読んでいるとだるくて気分が沈んでくる。
「おおっと!」
 撫子は元気を取り戻して画面に食いついた。日記の文中に先ほどのテーマパークの名前が出て来たのだ。しかも、興味深い内容が書いてある。
 ――このテーマパークとボクの作ったテーマパークを融合させてみたいと思う。そうすれば、ボクが常日頃から抱いていた?世界?についての謎が解けるような気がする。
「美少女名探偵撫子ちゃんの頭にビビッとひらめきがキラリ〜ン!」
 他の日記を読むのがだるかった撫子は、このテーマパークに的を絞って今後の調査をすることに決めた。
 撫子は日記の内容をネットを介してどこかに送り、次にハードディスクをフォーマットした。つまり、パソコンの中に入っていたデータを全部消してしまった。そして、極め付けに本体を分解しはじめて、中身のハードディスクを自慢の爪で壊した。
 ひと仕事終えた撫子は腕を天井に向けてめいっぱい伸ばして息を吐いた。
「よし、帰るか」